- 科目 B の枠組み(150 分・11 問出題・5 問解答・各 20 点・問 1 必須)と、基準点 60 点への 2 通りの積み方
- 設問の 6 形式、設問別配点が非公開であることから導かれる当日の行動
- 設問と本文を往復する読み方と、下線部・空欄・注釈が伏線になる仕組み
- 字数指定に答える 5 つのテンプレート(理由・目的・対策・懸念・事象)
- 150 分の時間配分、撤退ライン、当日 4 問を絞り込む決定フロー
- 必須の問 1 情報セキュリティ ― 19 回分の題材、頻出論点、採点講評が指摘する失点 8 型
問 1 は 19 回すべてで情報セキュリティが出題される必須問題で、20 点は科目 B の 5 分の 1 です。採点講評の全体正答率は高 4 回・やや高 2 回・平均 8 回に対し、低はわずか 2 回。得点を読める問題です。ただし 19 回中 18 回で正答率の低い設問が 1〜3 個仕込まれるので、そこを深追いせず 12 点以上を確実に拾うのが目標になります。
科目 B の枠組みと 60 点の作り方
科目 B は記述式・150 分で、11 問が出題され 5 問に解答します。必須なのは問 1 だけで、残りは問 2〜11 から 4 問を選びます。配点は問 1 が 20 点、選択の 4 問も各 20 点、合計 100 点満点で基準点は 60 点です。応用情報技術者試験の採点は IRT(項目応答理論)ではなく素点方式なので、積み上げた部分点はそのまま得点になります。
科目 A(150 分・80 問・四肢択一)と科目 B は別日に実施され、科目 A が基準点 60 点に届かなければ多段階選抜で科目 B は採点されません。科目 B 対策は「科目 A を 60 点に乗せてある」ことを前提に積む、という順序を崩さないでください。
その 60 点は「20 点の問題を 3 問完答した分」に相当します。しかし当日どれか 1 問を完答できる保証はどこにもなく、実務的には5 問すべてで 6 割(12 点)を積むほうが易しいです。言い換えると到達条件は「どの 1 問も 0 点にしない」こと。空欄を残さない、迷ったら部分点を狙って書く、という当日の行動はすべてここから導かれます。
問番号と分野の対応は、直近 10 年(19 回)で一度も入れ替わっていません。試験要綱 Ver.5.6 の別紙も同じ構造で、情報セキュリティが問 1 の「◎必須解答」、それ以外の分野が問 2〜11 の「○選択解答」(出題 10・解答 4)です。配置が固定である以上、捨てる分野は学習を始めた日に決められます。
| 問 | 分野 | 解答 | 知識章 | 解き方章 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 情報セキュリティ | 必須 | 第 11・12 章 | 本章 |
| 2 | 経営戦略・情報戦略 | 選択 | 第 18・19・21 章 | 第 25 章 |
| 3 | プログラミング(アルゴリズム) | 選択 | 第 3 章 | 第 24 章 |
| 4 | システムアーキテクチャ | 選択 | 第 5 章 | 第 24 章 |
| 5 | ネットワーク | 選択 | 第 10 章 | 第 24 章 |
| 6 | データベース | 選択 | 第 9 章 | 第 24 章 |
| 7 | 組込みシステム開発 | 選択 | 第 7 章 | 第 24 章 |
| 8 | 情報システム開発 | 選択 | 第 13・14 章 | 第 24 章 |
| 9 | プロジェクトマネジメント | 選択 | 第 15 章 | 第 25 章 |
| 10 | サービスマネジメント | 選択 | 第 16 章 | 第 25 章 |
| 11 | システム監査 | 選択 | 第 17 章 | 第 25 章 |
要綱の別紙では「経営戦略」「情報戦略」「戦略立案・コンサルティング技法」の 3 行が問 2 の 1 枠を分け合っていますが、19 回のうち IT 戦略が主題になったのは令和 3 年春の 1 問だけです。問 2 は実質「経営戦略の事例問題」と考えて構いません。
設問の 6 形式と、記述式の採点で起きていること
科目 B の 1 問は、設問 1〜設問 5 程度に分かれ、その下に (1)(2)… の小設問がぶら下がります。問 1 情報セキュリティの 19 回分を小設問の単位で数えると合計 129 小設問、1 問あたり 5〜9(平均 6.8)でした。内訳は 5 個が 2 回、6 個が 7 回、7 個が 4 回、8 個が 5 回、9 個が 1 回です。20 点を平均 6.8 で割ると 1 小設問あたり 3 点前後。設問別の配点は公開されていないので、当日「この設問は配点が高そうだ」と重み付けする根拠はありません。全部同じ重さだと思って全部埋めるのが最善手です。
| 形式 | 小設問数 | 比率 | 解答の作り方 |
|---|---|---|---|
| 字数記述 | 57 | 44% | 本文の固有名詞を使い、テンプレートに当てて上限の 7〜9 割を埋める |
| 記号選択 | 54 | 42% | 目的・主体が違う肢を消去。「2 つ選べ」「すべて選べ」「適切でないもの」に注意 |
| 用語記述 | 10 | 8% | 「アルファベット 3 字」「漢字 4 字」など字種指定から候補を絞る |
| 穴埋め(図・表の項番) | 6 | 5% | 表の項番や手順番号を答える。図表を先に読めば取れる |
| 手順番号記述 | 1 | 1% | 令和 5 年秋、S/MIME の手順のどこで改ざんを検知するか |
| 計算 | 1 | 1% | 令和 6 年秋のみ。ペッパーの総当たり組合せ数を指数表記で答える |
字数記述と記号選択で 86% を占めます。ここで見落としやすいのが、回ごとの偏りが非常に大きいことです。令和 3 年秋は 6 小設問中 5 が字数記述、逆に令和 3 年春は 8 中 6 が記号選択、令和 5 年春に至っては 9 中 8 が記号選択と穴埋めでした。「問 1 は記述が多い」と決めつけて臨むと、記号ばかりの回で消去法の精度が足りずに落とします。直近 4 回は記述 2〜4・選択 2〜3・用語 0〜2 とおおむね均衡しています。
字数指定は 15〜35 字が本命
19 回の字数指定は 59 件ありました。分布は次のとおりで、15〜35 字で 45 件と大半を占めます。
| 字数 | 件数 | この字数で書けること |
|---|---|---|
| 12 字以下 | 11 | 実質は用語記述。文にしようとすると入らない |
| 15 字 | 8 | 主語 + 動詞 1 組。修飾語を足す余地はない |
| 20 字 | 11 | 「〈対象〉を〈動作〉するため」がちょうど収まる |
| 25 字 | 9 | 目的語を 1 つ足せる。攻撃名や機器名を入れる |
| 30 字 | 11 | 条件(いつ・どの場面で)を 1 つ足せる |
| 35 字 | 6 | 理由 + 結果の 2 段階まで書ける。令和 6 年春以降はこれが上限 |
| 40 字 | 3 | 平成 29 年秋・平成 30 年春・令和 5 年秋のみ |
ここから 2 つの実務的な結論が出ます。第 1 に、40 字の練習より 20〜30 字の練習を優先すること。令和 6 年春以降は 35 字が上限で、長文を書く力より「短く言い切る力」が問われています。第 2 に、12 字以下の設問は文を作らないこと。「〜から」「〜ため」を付けようとすると本体が削れて、要点が消えます。
記述式の採点は、書いた文字列が解答例と一致しているかではなく、解答例が含んでいる要点が自分の答えにも入っているかで決まります。そのため「言い方が違うから 0 点」を恐れる必要はありません。逆に、要点が 2 つある設問で 1 つしか書かなければ、日本語としてどれだけきれいでも減点されます。採点講評が繰り返し指摘する「要素を挙げ切れていない」という誤答傾向は、この構造から生まれます。
問題文の読み方 ― 設問と本文を往復する
科目 B の本文は 3〜5 ページあり、頭から精読すると 1 問で 40 分が飛びます。正解は設問を先に読み、本文を「探しに行く」順序です。設問は本文のどこを見ればよいかを教えてくれる索引だからです。
本文 1 周目でマークする 4 種類
本文を最初に通すとき、次の 4 つだけを拾います。読解ではなく索引づくりだと考えてください。
- 構成図の機器と通信経路 ― ファイアウォール、プロキシ、DMZ、DNS、メール中継。どの通信がどの機器を通り、どこにログが残るかを図の上で確認します
- 登場人物と役割 ― 担当者・上司・外部専門家・委託先。誰の発言かで、その内容が「現状の説明」なのか「見落としの指摘」なのか「対策の方向づけ」なのかが変わります
- 「対策 1」「対策 2」のような番号付き箇条書き ― 設問はほぼ必ずこの番号を参照します
- 下線部と空欄 ― 下線部は設問の伏線です。答えの材料は下線部の前後 2〜3 文にあります
本文中の〔 〕や注釈も見落とせません。「〜は 6 か月で上書きされる」「〜は社外からは参照できない」といった一見どうでもいい条件が、そのまま理由記述の根拠になります。平成 29 年秋の問 1 では、会員番号の範囲が限定されているという本文の条件を根拠にハッシュ値の突合が成り立つことを説明させました。この条件を読み落とした受験者が「逆算する」と書いて失点しています。
CBT 方式ではメモ用紙が配られません。画面のメモ機能に打ち込むことになるので、紙のように構成図へ矢印を書き込むことはできません。代わりにテキストで書ける形にメモの型を作っておきます。たとえば「PC → プロキシ → FW → 外部」「A 氏=担当、B 課長=指摘」「対策 1=定義ファイル更新、対策 2=バックアップ」のように 1 行で表す形です。図の読み取りを言葉に変換する練習は、そのまま字数記述の練習にもなります。
字数指定の答え方 ― 5 つのテンプレート
字数記述は 129 小設問のうち 57 を占める最大の形式です。ここを「文章力」で乗り切ろうとすると崩れます。問い方によって文末が決まり、文末が決まれば入れるべき部品も決まるという機械的な処理に落とすのが正解です。
| 問い方 | 文末の型 | 入れる部品 | 解答の例 |
|---|---|---|---|
| 理由(なぜか) | 〜から | 原因となる事実 1 つ | 古い記録のログが上書きされるから |
| 目的(何のためか) | 〜ため | 対象 + 防ぎたい事象 | 社内の他の機器と通信させないため |
| 対策(どうするか) | 〜する/〜させる | 対象 + 条件 + 動作 | 共有ディスクはバックアップ時だけ接続し、それ以外は切り離す |
| 懸念・問題点 | 〜できないこと/〜されること | できない主体 + できない内容 | 受信者が送信者を確認できないこと |
| 事象(何が起きているか) | 〜されている/〜している | 主体 + 観測できる動き | 特定の宛先へ定期的に通信している |
いちばん取りこぼしが多いのが「対策」です。対策は対象・条件・動作の 3 部品でできています。どれか 1 つでも欠けると「一般論を書いた」と見なされます。図 23-3 は 30 字の対策記述を組み立てた例です。
字数記述の 5 か条
- 上限の 7〜9 割を埋める。30 字なら 21〜27 字。半分しか書けていない答えは、要素が足りていない合図です
- 主語と対象を落とさない。採点講評が繰り返し指摘する失点で、字数枠が狭いほど主体が消えます。「切り離す」ではなく「共有ディスクを切り離す」
- 本文の固有名をそのまま使う。機器名(PC-A、FW、サーバ L)、対策番号、略語は言い換えず引用します
- 「本文中の字句を用いて」は抜き出し以外を認めない指示です。自分の言葉に直すと 0 点になります
- 文末を問い方に対応させる。理由を聞かれて「〜する」で終える、対策を聞かれて「〜だから」で終える答えは、内容が合っていても要点を外したと判定されます
150 分の使い方と選択戦略
150 分を 5 問で割ると 1 問 30 分です。しかし 30 分をまるまる使うと、選択と見直しの時間がゼロになります。現実的な予算は1 問 25〜30 分で、そこから最初の 5 分と最後の 10 分を捻出します。
問 1 から解く 3 つの理由
- 必須なので避けられない。後回しにしても解く時間が減るだけです
- 採点講評の全体正答率が高 4 回・やや高 2 回・平均 8 回と、19 回中 16 回が平均以上。得点が読めるので、序盤に処理すると残りの計画が立ちます
- 最初に解くからこそ35 分を超えると選択問題を圧迫することがはっきり分かります。時計を見る基準ができます
例外は問 3(プログラミング)を選ぶ人です。問 3 は「着手 10 分で実データと配列の対応表が書けなければ撤退」という判定が要るので、問 1 の直後に置きます。終盤に始めると撤退を決めた時点で残り時間が足りません。
当日 4 問を絞り込む
選択は当日ひらめくものではありません。5〜6 分野を仕込んでおき、当日 1〜2 分野を捨てるのが正しい形です。予備をゼロにすると、得意分野が難化した回に逃げ場がなくなります。
ルートを決めたら、当日は次の 4 基準で 4 問に絞ります。図表の型の馴染み、記述の本数と字数上限、計算の個数と型、本文の量。この 4 つはどれも問題を解かずに 1 分で判定できるもので、だからこそ 5 分のスキャンで機能します。
| 避けたい組合せ | なぜ危険か | 代わりに |
|---|---|---|
| 問 3 + 問 7 | どちらもトレースと計算に集中する。分散が最大の 40 点分を同じリスクに賭ける | 片方を計算ゼロ系(問 8 か問 11)に替える |
| 問 2・9・10・11 を全採用 | 字数記述比率が 57.7〜78.6%。特に問 11 は 1 問 7.7 小設問で、書く量が 150 分に収まらない | 1 枠を記号選択の多い分野に振る |
| 計算の多い分野を 3 本重ねる | 問 4・7 に加えてもう 1 本計算を重ねると、単位・桁のミスが連鎖する | 計算ゼロの回がある分野を 1 つ混ぜる |
| 「SQL は読める」で問 6 | 問 6 は構文を書かせる。採点講評で「低」が 5 回と全分野で最多 | 書いた経験がないなら予備扱いにする |
| 予備分野をゼロ | 得意分野が難化した回に逃げ場がなくなる | 5〜6 分野を仕込み、当日 1〜2 分野を捨てる |
最後の 10 分の見直しは、新しい問題を解くより確実に点になります。確認するのは 6 点だけです。① 空欄が残っていないか ② 主体が設問の主語と一致するか ③ 文末が問い方に対応しているか ④ 字数は上限の 8 割以上か ⑤ 単位・桁数・切上げ/切捨て ⑥「本文中の字句を用いて」を守ったか。
採点講評の読み方と、問 1 の失点 8 型
IPA は問題・解答例と一緒に採点講評を公開しています。ここには「全体として正答率は平均的であった」といった総評に加え、正答率が低かった設問と誤答の傾向、そして「〜を理解してほしい」という出題側の意図が書かれています。過去問演習の価値の半分はここにあります。解いて答え合わせをしたら、必ず講評まで読んでください。
問 1 の 19 回分の全体正答率は、高が 4 回(平成 28 年秋・平成 29 年春・令和元年秋・令和 6 年春)、やや高が 2 回(令和 5 年春・令和 6 年秋)、平均が 8 回、低が 2 回(平成 28 年春・平成 30 年春)、明記なしが 3 回でした。19 回中 16 回が平均以上という、科目 B の中では取りこぼしにくい分野です。ただし19 回中 18 回で「正答率が低い」設問が 1〜3 個指摘されています(例外は令和 6 年秋のみ)。全問正解を狙いにいくと時間を溶かす構造だと理解してください。
| # | 失点の型 | 講評で指摘された例 | 対処 |
|---|---|---|---|
| 1 | 略語・新語を名前だけ知っていて、仕組みや用途を答えられない | PKI、CC、SIEM、EDR、ゼロトラスト、イミュータブル、デジタルフォレンジックス | 用語は必ず「目的 + 仕組み + 何が防げるか」の 3 点セットで覚える |
| 2 | 目的の違う対策・用語を混同する | 定義ファイル更新とパッチ適用、誤送信対策と不正持出し対策、DV 証明書と EV 証明書、共通鍵と公開鍵の処理負荷 | 似た用語は対比表で覚える。「これは何を防ぐか」で仕分ける |
| 3 | 本文の別の箇所を流用し、問われた特徴に答えない | 拡張子の変更を問われてネットワーク通信の話を書く(平成 30 年春) | 下線部の直前直後だけを根拠にする。離れた箇所は使わない |
| 4 | 攻撃者の視点で手順を追えない | 攻撃者が最初に集めるのはソフトウェアの種類とバージョン、ICMP エコー要求にポート番号はない、リバースブルートフォースは同一 ID で 2 回以上試行しない | 攻撃を「偵察→侵入→潜伏→持出し」の順に並べ、各段階で何が観測されるかを言えるようにする |
| 5 | 仕組みの「なぜ」を説明できない | NTP で時刻を合わせる理由、ソルトでレインボーテーブルが使えなくなる理由、ランサムウェアが共有先まで暗号化する理由 | 対策を覚えるとき「これが無いと何が起きるか」を 1 文で言う練習をする |
| 6 | 技術的対策に偏り、組織・心理面の対策を落とす | 不正のトライアングルを低減する心理的対策(令和 7 年秋。IPA は「技術的な対策に着目しがち」と明記)、対策の告知が抑止になる理由 | 内部不正が題材なら、必ず「周知・監視の告知・教育」を候補に置く |
| 7 | 設定・運用レベルの具体策を知らない | オートコンプリートの無効化、試行回数の上限設定、不要サービスの停止、バックアップ媒体を PC から切り離して保管 | 知識章の対策を「画面のどの設定か」まで下ろして覚える |
| 8 | 解答群を吟味せず選ぶ | 複数選択で選び切れない、「パソコンの製造番号」を認証情報に選ぶ、SPF を選べない(平成 30 年秋・令和元年秋の 2 回とも低正答率) | 「2 つ選べ」「すべて選べ」に丸を付け、消去した肢に×を残す |
この 8 型のうち、型 1 と型 6 は問 1 に固有の重さがあります。情報セキュリティは新語の登場が最も速い分野で、SIEM・EDR・ゼロトラスト・SBOM・イミュータブルはいずれも直近 4 年で初出です。そして問 1 は必ず技術と管理の両面を問います。19 回のどの回にも、技術的対策の設問と、体制・教育・抑止といった管理的対策の設問が同居しています。技術だけ固めても 20 点満点の 2〜3 割は取り逃します。
過去問 1 回分のまわし方
問 1 は 19 回分の過去問が公開されており、これがそのまま最良の教材です。ただ解いて答え合わせをするだけでは、講評に書かれた情報の大半を捨てることになります。次の 5 手順で回してください。
- 27 分を計って解く。本番の予算と同じ時間でやらないと、撤退判断の感覚が身に付きません
- 採点する。字数記述は「解答例の要点が自分の答えに入っているか」で〇か×を付け、△を作りません。△は「たぶん部分点」という願望で、復習の対象から漏れます
- 採点講評を読む。正答率が低いと書かれた設問に印を付け、自分が正解できたかどうかと突き合わせます。低正答率の設問を落としているなら、それは想定内です
- 外した設問を失点 8 型に分類する。回を重ねると自分の型が偏ることが見えます。型 1(用語を名前だけで覚えている)が多いなら知識不足、型 3・5(本文の使い方・なぜの説明)が多いなら読み方と記述の型の問題で、対策が正反対です
- 戻る先を決める。型 1・2 なら第 11・12 章の対比表へ、型 4・5 なら本章の図 23-7(攻撃の段階と対策の位置)へ、型 6・7 なら組織的対策と設定レベルの具体策へ戻ります
19 回分をこの手順で通すと、129 の小設問に触れることになります。同じ論点が業種を変えて何度も出るので、5〜6 回分を過ぎたあたりから「またこれか」という感覚が出てきます。その感覚が出たら仕上がりです。
問 1 の 19 回分 ― 題材とジャンル
直近 10 年(19 回)の問 1 は、すべて情報セキュリティでした。過去問は旧・午後試験として実施されたものですが、試験要綱 Ver.5.6 の科目 B も問 1 が情報セキュリティの必須解答なので、分野配置はそのまま引き継がれます。まず全 19 回の題材を眺めてください。同じ論点が業種を変えて何度も戻ってくることが見えます。
| 回 | 題材 | 主要論点 |
|---|---|---|
| 平成 28 年春 | 書籍販売サイトの侵入テスト | TLS/踏み台/ゼロデイ/ポートスキャン/WAF/SQL インジェクション/ログ監視 |
| 平成 28 年秋 | 生体認証システムの導入 | アカウントロック/PKI/マニューシャ方式/他人受入率・本人拒否率/指紋情報の分離管理 |
| 平成 29 年春 | マルウェア対策の見直し | 水飲み場型/バックドア通信/URL フィルタリング/NTP によるログ時刻同期/対応体制 |
| 平成 29 年秋 | 個人情報保護の強化 | AES/ハッシュの一方向性/鍵の世代管理/仮名化/限定範囲でのハッシュ突合/誤送信対策 |
| 平成 30 年春 | ランサムウェア感染対応 | 拡張子の変更/ドライブバイダウンロード/定義ファイル更新/被害拡大の確認/バックアップの隔離 |
| 平成 30 年秋 | サーバの脆弱性診断と対策 | ポートスキャン/Web アプリ診断/SPF/SQL インジェクション/FW の多層制限/企画段階での脆弱性対応 |
| 平成 31 年春 | EC サイトの利用者認証 | 認証の 3 方式/ブルートフォースとパスワードリスト/試行回数制限/ソルト/レインボーテーブル/使い回し |
| 令和元年秋 | 標的型サイバー攻撃対策 | 初動の切り離し/FW による C&C 通信の遮断/SPF/水飲み場型/潜伏と URL フィルタリング/不審メール受信時の行動 |
| 令和 2 年 10 月 | 内部不正による情報漏えい対策 | 不正のトライアングル/デバイス制御/ホワイトリスト/メールアーカイブ/フォレンジックス/抑止 |
| 令和 3 年春 | DNS サーバへの攻撃対策 | キャッシュポイズニング/権威 DNS とキャッシュ DNS/DV・EV 証明書/ゾーン転送の禁止/TTL |
| 令和 3 年秋 | オフィスの物理セキュリティ対策 | 非接触 IC カード/CC(コモンクライテリア)/アンチパスバック/クリアデスク・クリアスクリーン/オンデマンド印刷/私物持込み |
| 令和 4 年春 | 通販サイトの改ざん対応 | 不要サービスの停止/WAF/ゼロデイと暫定対策/ハッシュリスト比較型の改ざん検知/SIEM/対応チーム |
| 令和 4 年秋 | マルウェア対応と EDR 導入 | FW/SPF とその限界/DNS リフレクション/ICMP エコーによるホスト探索/SYN スキャン/EDR |
| 令和 5 年春 | マルウェア対策の体制整備 | サイバーキルチェーン/EDR/CSIRT/脆弱性情報と資産目録/訓練と対応フロー/バックアップ媒体 |
| 令和 5 年秋 | PPAP から S/MIME への移行 | PPAP の問題点/S/MIME/ハイブリッド暗号/電子署名とハッシュ/PKI と CA/証明書の検証 |
| 令和 6 年春 | 学習塾のゼロトラスト移行 | 境界型防御とゼロトラスト/URL フィルタリング/SIEM/IDaaS・SSO/多要素認証/EDR/リモートワイプ |
| 令和 6 年秋 | ペネトレーションテスト | ハッシュの一方向性/認証の 3 要素/ブルートフォースとレインボーテーブル/プレースホルダ/多層防御/ソルト・ペッパー・ストレッチング |
| 令和 7 年春 | サプライチェーン攻撃への対応 | フォレンジックス/辞書攻撃とリバースブルートフォース/RDP/ロックアウトしきい値の限界/世代管理/イミュータブル |
| 令和 7 年秋 | グループ会社のサプライチェーン対策 | 境界防御とゼロトラスト/need-to-know/SIEM/SBOM/不正のトライアングル/脆弱性情報への迅速な対応 |
19 問を場面で分けると 4 ジャンルになります。
| ジャンル | 場面 | 件数 |
|---|---|---|
| A. 事業者の情報保護 | 診断結果や外部専門家の助言を受けて対策を検討する(サイト診断・認証・個人情報・物理) | 7 |
| B. 感染・侵入のインシデント対応 | 感染事案の原因を調べ、初動と再発防止を決める | 6 |
| C. 認証・暗号・プロトコルの仕組み | 生体認証、DNS、S/MIME など仕組みそのものを追う | 3 |
| D. 組織・ガバナンス | 内部不正、ゼロトラスト移行、グループ統制 | 3 |
A と B で 13 / 19 を占め、どちらも中小〜中堅企業の情報システム部門(担当者 + 上司 + 外部専門家)の会話という同じ器に入っています。時系列で見ると、平成 28〜31 年は Web アプリ・認証・暗号、令和元〜5 年は標的型攻撃・EDR・SIEM・CSIRT、令和 6〜7 年はゼロトラスト・サプライチェーン・SBOM・イミュータブルと、題材の表面は移り変わります。それでも下敷きの論点(脆弱性管理・ログ・認証・初動)は変わりません。ランサムウェアは平成 30 年春・令和 5 年春・令和 7 年春の 3 回登場し、3 回ともバックアップの保護がセットでした。
| # | 頻出論点 | 回数 | どう問われるか |
|---|---|---|---|
| 1 | 脆弱性管理(診断・ペネトレ・脆弱性情報・ゼロデイ暫定対策・SBOM) | 5(題材そのものが 3 回) | 導入後の脆弱性への懸念、暫定対策の判断、企画段階への組込み |
| 2 | URL フィルタリング | 5 | 出口対策・ホワイトリスト・不要サイトの遮断。記号選択か 15 字記述 |
| 3 | FW と不要ポート・不要サービスの停止 | 5 | 「必要なポートだけ開ける」、FW で C&C 通信が遮断される理由 |
| 4 | ログ管理(監視・NTP・SIEM) | 5(SIEM 単独で 3) | SIEM の用語記述、導入目的 30 字、NTP で時刻を合わせる目的 |
| 5 | パスワード攻撃(総当たり・リスト・辞書・リバースブルートフォース・レインボーテーブル) | 4 | 攻撃名の用語記述と「違い」、対策が効かない理由 |
| 6 | ハッシュ関数(一方向性・ソルト・ペッパー・ストレッチング) | 4 | 「ハッシュ値からパスワードの割出しは難しい」25 字が平成 31 年春と令和 6 年秋で同型 |
| 7 | 標的型攻撃と侵入後の活動(水飲み場・C&C・潜伏・内部偵察・キルチェーン) | 4 | 手口の記号選択、マルウェアの動作から検知すべき事象を導く |
| 8 | インシデント対応体制(CSIRT・対応チーム・報告窓口・訓練) | 4 | 組織名の用語記述、体制整備の施策を 2 つ選ぶ |
| 9 | インシデント初動(切り離し・隔離) | 1(解答例には 3 回) | 「社内の他の機器と通信させないため」の 20 字 |
| 10 | 暗号方式(共通鍵・公開鍵・ハイブリッド・TLS・危殆化) | 3(解答例には 4 回) | 共通鍵を使う理由「処理速度が速いから」 |
11 位以下も 3 回前後で並びます。PKI・電子証明書・CA が 3 回、ランサムウェアとバックアップ保護が 3 回、EDR が 3 回、SPF が 3 回、SQL インジェクション対策が 3 回、ポートスキャンとホスト探索が 3 回、アカウントロックと試行回数制限が 3 回、認証方式(3 要素・多要素・IDaaS)が 3 回、メール経由の漏えい対策(誤送信・PPAP・別送)が 3 回。さらに不正のトライアングル・ゼロトラスト・フォレンジックス・WAF・DNS 攻撃・改ざん検知・多層防御が各 2 回です。ゼロトラストは直近 3 回のうち 2 回に出ており、伸びている論点です。
| 項目 | 問 1(情報セキュリティ)の実績 |
|---|---|
| 題材 | 事案対応と対策の見直し |
| 形式比率 | 字数記述 44% / 記号選択 42% / 用語記述 8%(129 小設問・1 問平均 6.8) |
| 字数記述 | 15〜35 字が 45 件。令和 6 年春以降は 35 字が上限 |
| 計算 | 19 回で 1 件のみ(令和 6 年秋、文字種数の 4 乗) |
| 全体正答率 | 高 4 / やや高 2 / 平均 8 / 低 2 / 明記なし 3 |
| 得点源にできる人 | 用語を「仕組み + 目的」で覚え、構成図と登場人物の行動を追える人 |
頻出論点の定番フレーズ
字数記述は、頻出論点ごとに答えの核がほぼ決まっています。次に挙げるのは 19 回の解答例に繰り返し現れる骨格です。丸暗記して貼り付けるのではなく、本文の固有名詞に置き換えて使う型として覚えてください。
| 論点 | 問い方 | 答えの核 |
|---|---|---|
| 感染が疑われる機器の切り離し | 目的 | 社内の他の機器と通信させないため |
| FW での C&C 通信の遮断 | 理由 | 外部の指令サーバとの通信を止め、遠隔操作をさせないため |
| URL フィルタリング | 目的 | 業務に不要なサイトへの接続を遮断し、不正サイトへの誘導を防ぐため |
| NTP による時刻同期 | 理由 | 複数の機器のログを時系列で突き合わせるため |
| SIEM の導入 | 目的 | 複数の機器のログを集約し、相関分析して異常を検知するため |
| ハッシュの一方向性 | 理由 | ハッシュ値から元のパスワードを求めることが困難だから |
| ソルトの付加 | 理由 | 利用者ごとにハッシュ値が変わり、事前計算した対応表が使えなくなるから |
| ハイブリッド暗号でデータ本体に共通鍵を使う | 理由 | 公開鍵暗号より処理速度が速いから |
| バックアップの隔離 | 対策 | バックアップ時だけ接続し、それ以外は切り離す |
| 不要なサービス・ポートの停止 | 理由 | 攻撃者が侵入に利用できる経路を減らすため |
| ログ監視の周知 | 理由 | 発覚しないという認識をなくし、不正を行う機会を減らすため |
| ゼロデイへの暫定対策 | 対策 | 修正プログラムが提供されるまで、該当する機能を停止する |
この 12 個は、そのまま本試験で通用する形になっています。ただし本文に機器名や対策番号が出ていれば、それを差し込むことを忘れないでください。「社内の他の機器と」を「同じセグメントの他の PC と」に、「バックアップ」を「共有ディスク D」に置き換えるだけで、一般論の答えが本文に即した答えに変わります。講評が指摘する「本文の固有条件を使わない」失点は、この一手間で消せます。
典型設問の型と、図表の読み取り手順
問 1 の本文には、ほぼ必ずネットワーク構成図が付きます。19 回のうち平成 29 年春・令和元年秋・令和 4 年秋・令和 7 年秋は、機器の並びまでほぼ同型でした。構成図は「絵」ではなくログの所在の一覧表だと考えて読むと、設問がどこを聞いているかが即座に分かります。
構成図と一緒に出る図表は 3 種類です。読む順番を決めておくと、本文に戻る回数が減ります。
- FW のルール表 ― 「送信元・宛先・プロトコル/ポート・動作」の 4 列を見て、どの通信が許可されていないかを先に確認します。設問は許可されている通信より、拒否されている(あるいは拒否すべき)通信を聞きます
- ログの抜粋 ― 「時刻・送信元 IP・宛先 IP/ポート・イベント」の 4 列。まず時刻の並びを見て、短い間隔で繰り返している行と、他と異なる 1 行を探します。異常はこの 2 か所にしかありません
- シーケンス図・手順の番号付き並び ― 各手順で誰が何の鍵を使うか、どこで検証が入るかを追います。令和 5 年秋の S/MIME の設問はこの型でした
| 典型設問の型 | 出題 | 問われ方 | 解答の骨格 |
|---|---|---|---|
| 初動の目的 | 令和元年秋 | 感染が疑われる PC をネットワークから切り離す目的を 20 字以内で | 「社内の他の機器と通信させないため」= 目的テンプレートの基本形 |
| 動作から検知事象を導く | 令和 4 年秋 | 本文に書かれたマルウェアの動作から、EDR が検知すべき事象を答える | 動作を通信の言葉に翻訳する(内部探索 → ICMP エコー要求の連続送信) |
| 対策の限界 | 令和 7 年春 | ロックアウトのしきい値がリバースブルートフォースに効かない理由を 25 字以内で | 攻撃手順から説明する(同一 ID で 2 回以上試行しないので試行回数が積み上がらない) |
| 心理面の効果 | 令和 7 年秋 | ログを記録していることを周知すると内部不正の抑止になる理由を 30 字以内で | 不正のトライアングルの「機会」「正当化」を下げる、と組織的な言葉で書く |
| 鍵の流れの穴埋め | 令和 5 年秋 | S/MIME で使う 4 つの鍵(送信者・受信者それぞれの秘密鍵と公開鍵)を手順に当てはめる | 署名は送信者の秘密鍵、検証は送信者の公開鍵、暗号化は受信者の公開鍵、復号は受信者の秘密鍵 |
| 安全性の理由 + 計算 | 令和 6 年秋 | ペッパーがデータベースから窃取されない理由を 35 字以内で、および総当たりの組合せ数 | 保管場所が違う(アプリ側の設定に持つ)ことを書く。計算は「文字種数の桁数乗」 |
| 本文の条件を根拠にする | 平成 29 年秋 | 会員番号の範囲が限定されている条件から、ハッシュ値の突合が可能な理由を 35 字以内で | 本文の限定条件をそのまま引用して「総当たりで対応表が作れる」と書く |
| 運用レベルの対策 | 平成 30 年春 | 共有ディスクをランサムウェアから守る運用を 30 字以内で | 「対象 + 条件 + 動作」(バックアップ時だけ接続し、それ以外は切り離す) |
計算の型: 総当たりの組合せ数
組合せ数 = 文字種数 桁数(使える文字の種類を、桁数の分だけ掛け合わせる)
例題: 使用できる文字が 70 種類、長さが 4 文字のペッパーを総当たりで試すとき、試行の組合せは何通りか。
- 1 桁目に置ける文字は 70 通り
- 2 桁目以降も独立に 70 通りずつなので、70 × 70 × 70 × 70
- 答えは 704 通り。指数表記のまま答える(電卓で展開しない)
19 回で計算が出たのはこの 1 件だけです。ここに時間を使うより、記述の型を固めるほうが期待値は高くなります。
攻撃の段階と、対策が効く位置
問 1 の記述で最も差がつくのが「なぜその対策が有効か」です。これは攻撃を段階に分け、対策がどの段階を止めるかを言えるかという問題に還元できます。令和 5 年春はサイバーキルチェーンそのものが題材になりました。
パスワード攻撃も同じ整理が要ります。攻撃ごとに効く対策と効かない対策が違うことが、令和 7 年春の設問(ロックアウトのしきい値が効かない理由)のような「対策の限界」を問う設問の下敷きです。
| 攻撃 | やり方 | 試行回数制限 | ソルト・ストレッチング | 多要素認証 |
|---|---|---|---|---|
| ブルートフォース | 1 つの ID に全パターンを試す | 効く | 効く(オフライン解析を遅らせる) | 効く |
| 辞書攻撃 | 1 つの ID によくある語を試す | 効く | 効く | 効く |
| リバースブルートフォース | 1 つのパスワードを多数の ID に試す | 効かない(ID ごとの試行が積み上がらない) | 効かない | 効く |
| パスワードリスト攻撃 | 他社から漏えいした ID とパスワードの組を試す | 効きにくい(1 回で当たる) | 効かない | 効く |
| レインボーテーブル | 事前計算した対応表からハッシュ値を逆引きする | 関係しない | 効く(ソルトで表が使えなくなる) | 関係しない |
ひっかけポイント
演習問題(科目 B 形式)
本試験と同じ分量・形式で 1 題です。目安は 27 分。設問を先に全部読んでから本文に入り、字数記述は最後にまとめて書いてください。
問 1 テレワーク環境における不正アクセスへの対応に関する次の記述を読んで、設問 1〜5 に答えよ。
K 税理士法人は、職員 40 名で記帳代行と申告支援を行っている。顧問先は約 300 社で、総勘定元帳と決算書のデータはクラウド会計サービス(以下、M サービスという)に保管している。職員の給与計算には別のクラウドサービス(以下、N サービスという)を利用している。M サービス、N サービスとも認証は利用者 ID とパスワードだけで行っている。
事務所の LAN はファイアウォール(以下、FW という)でインターネットと分離されており、職員 PC からの Web アクセスはすべてプロキシサーバを経由する。テレワーク時は貸与ノート PC から VPN 装置を経由して事務所 LAN に接続するが、M サービスと N サービスへは VPN を経由せず、貸与ノート PC からインターネット経由で直接接続する運用としている。FW、プロキシサーバ、VPN 装置のログはそれぞれの機器に 90 日分保管されているが、機器ごとに時刻がずれており、突き合わせは行っていない。
20XX 年 6 月 10 日、職員 P 氏宛てに「M サービスのパスワードの有効期限が本日で切れる。24 時間以内に更新しないと利用できなくなる」という内容のメールが届いた。差出人のメールアドレスのドメインは、M サービスの正規のドメインに 1 文字を加えた文字列だった。P 氏はメール中のリンクを開き、M サービスとよく似た画面に利用者 ID とパスワードを入力した。画面には更新が完了した旨が表示されたが、その後 M サービスの画面には遷移しなかった。P 氏はそのまま業務を続けた。
6 月 12 日、M サービスの管理者である Q 課長が月次の点検を行い、6 月 11 日の深夜に顧問先データの一括ダウンロードが行われていたことに気付いた。Q 課長が M サービスの監査ログを確認したところ、表 1 の記録が残っていた。
表 1 M サービスの監査ログ(抜粋)
| 項番 | 日時 | 利用者 ID | 接続元 IP アドレス | 操作 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 6/10 09:12 | P | 203.0.113.10(事務所) | ログイン |
| 2 | 6/10 18:40 | P | 203.0.113.10(事務所) | ログアウト |
| 3 | 6/11 02:35 | P | 198.51.100.77(国外) | ログイン |
| 4 | 6/11 02:41 | P | 198.51.100.77(国外) | 顧問先データの一括ダウンロード |
| 5 | 6/11 09:05 | S | 203.0.113.10(事務所) | ログイン |
続いて Q 課長が N サービスのログを確認したところ、6 月 11 日の深夜に P 氏の利用者 ID で 3 回のログインの失敗があり、4 回目に成功していた。N サービスにはログイン試行回数の上限(しきい値 5 回でアカウントを一時ロック)が設定されていた。P 氏に確認したところ、M サービスと N サービスで同じパスワードを使っていたことが分かった。
K 税理士法人には、情報セキュリティに関する事案の報告窓口や対応手順を定めた文書はなく、今回も Q 課長が個人の判断で調査を進めていた。職員への教育は入所時の 1 回だけで、テレワークを開始した後は実施していない。また、M サービスの監査ログの保管期間は 30 日で、それ以前の記録は残っていない。このため Q 課長は、6 月 11 日より前にも同様の操作が行われていなかったかを確認できなかった。
加えて、貸与ノート PC には資産管理ソフトが導入されておらず、どの職員がどのクラウドサービスを業務で使っているかを法人として把握できていない。M サービスに保管された顧問先データには、顧問先企業の取引先名と取引金額、従業員の氏名と給与額が含まれている。
Q 課長は、外部の専門家 R 氏に相談し、表 2 の対策案を挙げた。
表 2 対策案
| 記号 | 対策案 |
|---|---|
| ア | M サービスと N サービスに、認証アプリのワンタイムパスワードによる多要素認証を導入する |
| イ | 貸与ノート PC の内蔵ディスクを暗号化する |
| ウ | M サービスのパスワードを 12 文字以上とし、90 日ごとの変更を義務付ける |
| エ | 事務所 LAN の FW で、国外の IP アドレスとの通信を遮断する |
R 氏は次のように述べた。「まず、貴法人は各機器のログを別々に保管していますが、時刻がずれているため機器をまたいだ調査ができません。ログの集約と分析の仕組みも検討してください。それから、技術的な対策だけでなく、職員への周知も忘れないでください。」
設問 1
表 1 のうち、不正アクセスによるものと判断できる項番をすべて挙げよ。また、そう判断した根拠を 35 字以内で述べよ。
設問 1 の解答例と採点ポイント
解答例 項番: 3、4/根拠: 事務所と異なる国外の IP アドレスから業務時間外に接続しているから(32 字)
採点ポイント 項番 5 は利用者 ID が S で接続元も事務所なので、通常の利用です。ここを混ぜると失点します。根拠は「接続元 IP アドレスが違う」と「時間帯が業務時間外」の2 つの要素が必要です。片方だけだと「深夜に残業したのかもしれない」「別拠点かもしれない」という反論が成り立ちます。要素が 2 つある設問で 1 つしか書かない、という講評の頻出指摘そのままの形です。
設問 2
(1) P 氏がパスワードを使い回していたために N サービスまで侵入された。この種の攻撃の名称を答えよ。
(2) N サービスにはログイン試行回数のしきい値が設定されていたが、被害を防げなかった。その理由を 30 字以内で述べよ。
設問 2 の解答例と採点ポイント
解答例 (1) パスワードリスト攻撃/(2) 試行回数がしきい値に達する前にログインが成功するから(26 字)
採点ポイント (1) は「ブルートフォース攻撃」「辞書攻撃」では誤りです。攻撃者は正しい組合せを 1 つ持っており、全パターンを試していません。(2) は攻撃の手順から説明するのが要点で、「しきい値が甘いから」「5 回では少ないから」は的外れです。実際には 4 回目で成功しており、しきい値をいくつに下げても同じ結末になります。試行回数制限が効くのは「多数の試行を必要とする攻撃」だけだ、という限界の理解が問われています。
設問 3
Q 課長は不正アクセスに気付いた直後、M サービスの P 氏のアカウントを無効化した。その目的を 20 字以内で述べよ。
設問 3 の解答例と採点ポイント
解答例 攻撃者による追加のデータ持出しを防ぐため(20 字)
採点ポイント 文末が「〜ため」であること、防ぎたい事象(追加の持出し)が入っていることの 2 点です。「パスワードを変更するため」は手段であって目的ではありません。「安全にするため」は防ぎたい事象が書かれていないので要点を満たしません。20 字は目的テンプレートがちょうど収まる長さで、修飾語を足す余地がないぶん、部品の抜けがそのまま減点になります。
設問 4
表 2 の対策案のうち、今回の侵入を直接防ぐことができたものを 1 つ選び、記号で答えよ。また、その理由を 35 字以内で述べよ。
設問 4 の解答例と採点ポイント
解答例 記号: ア/理由: 漏えいした ID とパスワードだけではログインできなくなるから(29 字)
採点ポイント 誤答の作られ方を確認してください。イ(ディスク暗号化)は PC の紛失・盗難への対策で、認証情報を入力させられた今回とは無関係です。ウ(長いパスワードと定期変更)は、利用者自身が偽サイトに入力してしまう経路には効きません。エ(FW で国外通信を遮断)は一見効きそうですが、本文に「M サービスへは VPN を経由せず貸与ノート PC から直接接続する」とあり、この通信は事務所の FW を通りません。本文の構成の条件を読めているかを問う型で、講評が繰り返し指摘する「本文の固有条件を使わずに一般論で答える」失点の裏返しです。
設問 5
(1) R 氏の指摘を受け、Q 課長は各機器の時刻を NTP で同期することにした。その必要性を 25 字以内で述べよ。
(2) さらに Q 課長は SIEM の導入を検討した。SIEM を導入する目的を 30 字以内で述べよ。
(3) R 氏は職員への周知も求めた。ログを取得して監視していることを職員に周知することが、内部不正の抑止になる理由を 30 字以内で述べよ。
設問 5 の解答例と採点ポイント
解答例 (1) 複数の機器のログを時系列で突き合わせるため(21 字)/(2) 複数の機器のログを集約し、相関分析して異常を検知するため(28 字)/(3) 見つからずに済むという認識を失わせ、不正の機会をなくすから(29 字)
採点ポイント (1) は「正確な時刻を記録するため」では足りません。時刻を合わせる価値は機器をまたいで並べたときに初めて出るので、「突き合わせる」「時系列で追う」に相当する語が要ります。(2) は「ログを集める」だけでなく相関分析による検知まで書きます。(3) は不正のトライアングル(動機・機会・正当化)のうち、監視の周知が下げるのは主に機会の認識です。この設問は技術面ばかりを答えて落とす人が多い型で、令和 7 年秋の講評でも「技術的な対策に着目しがち」と名指しされています。組織・心理面の対策が候補にあることを、内部不正やサプライチェーンが題材の回では常に思い出してください。
まとめ
| 覚える数字 | 値 | そこから決まる行動 |
|---|---|---|
| 試験時間と問題数 | 150 分・11 問出題・5 問解答 | 1 問の予算は 25〜30 分。選択に 5 分、見直しに 10 分 |
| 配点と基準点 | 各 20 点・100 点満点・基準点 60 点 | 3 問完答ではなく 5 問 × 12 点を狙う。0 点の問題を作らない |
| 問 1 の小設問 | 19 回で 129 個・1 問平均 6.8 | 1 小設問あたり約 3 点。配点は非公開なので全部同じ重さで埋める |
| 問 1 の形式比率 | 字数記述 44% / 記号選択 42% | この 2 形式で 86%。用語暗記だけでは 20 点の 4 割しか取れない |
| 字数指定の中心 | 15〜35 字が 45 件(令和 6 年春以降は 35 字上限) | 40 字の練習より 20〜30 字の練習。上限の 7〜9 割を埋める |
| 問 1 の正答率 | 19 回中 16 回が平均以上、ただし 18 回で低正答率設問あり | 満点を狙わず、確実な小設問で 12 点以上を確保して次へ進む |
| 問 1 の計算 | 19 回で 1 件のみ | 計算対策は「文字種数の桁数乗」1 型で足りる |
- 読む順序: 設問 → 本文 1 周(構成図・登場人物・対策番号・下線部の 4 種をマーク)→ 記号と用語 → 下線部の前後に戻って字数記述
- 記述の型: 理由は「〜から」、目的は「〜ため」、対策は「対象 + 条件 + 動作」、懸念は「〜できないこと」、事象は「〜されている」
- 問 1 の頻出: 脆弱性管理・URL フィルタリング・FW と不要サービス停止・ログ管理(NTP・SIEM)が各 5 回。次いでパスワード攻撃、ハッシュとソルト、標的型攻撃の侵入後活動、インシデント対応体制が各 4 回
- 失点の 2 大要因: 略語を名前だけで覚えていること、技術的対策に偏って組織・心理面を落とすこと。問 1 は必ず技術と管理の両面を問う
- 当日の見直し 6 点: 空欄/主体/文末/字数/単位・桁/「本文中の字句を用いて」
次章は科目 B のテクノロジ系選択問題(問 3〜8)です。本章で作った「設問を先に読み、テンプレートで書く」手順はそのまま使えます。違うのは撤退判断の基準で、分野ごとに「何分で見切るか」が変わります。