- JIS Q 27000 が定める 7 つの特性(機密性・完全性・可用性 + 真正性・責任追跡性・否認防止・信頼性)と、情報資産・脅威・脆弱性・リスクの関係
- マルウェアの分類と、パスワード・Web アプリ・ネットワーク・人を狙う攻撃を「手口 → 直接の被害 → 対策」で結ぶ
- 共通鍵暗号と公開鍵暗号の使い分け、鍵の数の計算、ハイブリッド暗号の組立て
- ハッシュ関数・HMAC・デジタル署名が何を保証し、何を保証しないか
- PKI の証明書チェーンと、CRL / OCSP による失効確認の違い
- 認証の 3 要素、パスワードの保護(ソルト・ストレッチング)、生体認証の FRR / FAR、SSO の役割分担
セキュリティは科目 A の全 23 中分類で出題数が最大です。直近 10 年 19 回で 190 問、1 回あたり平均 10.0 問(最少 9 問・最多 11 問)が出ており、第 12 章と合わせて 10 問前後を取り切ることが目標になります。科目 B は 19 回すべてで問 1 に配置された必須解答問題で、本章の用語が事例文の中の「どの機器の、誰の行動か」として現れます。
情報セキュリティの 7 つの特性とリスクの構造
情報セキュリティとは、情報資産を機密性(Confidentiality)・完全性(Integrity)・可用性(Availability)の 3 点で守ることです。頭文字を取って CIA と呼びます。JIS Q 27000 はこの 3 つに加え、真正性・責任追跡性・否認防止・信頼性の 4 つを挙げています。試験ではこの 7 つの定義文がそのまま選択肢になるので、隣り合う特性との差を自分の言葉で言えるようにしておきます。
| 特性 | 定義(何を確実にするか) | 失われた状態の例 |
|---|---|---|
| 機密性 | 認可された者だけが情報にアクセスできる | 顧客名簿が外部に流出する |
| 完全性 | 情報が正確・完全で、改ざんされていない | Web ページの内容を書き換えられる |
| 可用性 | 認可された者が必要なときに利用できる | DDoS 攻撃でサイトが応答しなくなる |
| 真正性 | 主体や情報が「本人・本物」であることが確実である | 他人になりすまして発注される |
| 責任追跡性 | ある行為を、行った主体まで一意に追跡できる | 共用アカウント運用で誰の操作か特定できない |
| 否認防止 | 行為や事象が後から否定されないことを証明できる | 「その注文はしていない」と言われて反証できない |
| 信頼性 | 意図した動作と結果が一貫している | 同じ入力でも処理結果がばらつく |
リスクは単独では存在しません。守るべき情報資産があり、そこに損害を与えうる脅威が働き、つけ込まれる弱点である脆弱性がそろってはじめて顕在化します。セキュリティ対策とは、この 3 つのどれかを小さくする行為だと考えると、対策の分類がそのまま頭に入ります。脅威は次の 3 つに分けて整理します。
- 人的脅威: 誤操作・誤謬・紛失・アクセス権の誤設定・内部不正・ソーシャルエンジニアリング・盗み見(ショルダーハッキング)・ごみ箱あさり(スキャベンジング)・SNS の悪用
- 技術的脅威: マルウェア感染・不正アクセス(クラッキング)・盗聴・改ざん・なりすまし・サービス妨害・踏み台にされること
- 物理的脅威: 地震や水害などの災害・機器の故障・破壊・盗難・侵入
脆弱性の側にもソフトウェアのバグやセキュリティホールだけでなく、規程や職務分掌が未整備であること、教育が徹底されていないこと(人的脆弱性)、内部統制の不備、情報システム部門が把握していない機器やクラウドを業務に使うシャドー IT が含まれます。1 つの対策に頼らず、入口・内部・出口に複数の防御を重ねる考え方を多層防御、企画・設計の段階からセキュリティやプライバシー保護を組み込む考え方をセキュリティバイデザイン・プライバシーバイデザインと呼びます。
脅威 ― マルウェアと攻撃者
マルウェアは「増殖するか」「宿主が要るか」「何を目的とするか」の 3 点で切り分けると、定義選択問題で迷いません。特にウイルス・ワーム・トロイの木馬の区別は繰り返し問われます。
| 種類 | 振る舞い | 見分けるポイント |
|---|---|---|
| コンピュータウイルス | 他のプログラムやファイルに寄生して自分の複製を作る | 宿主が要る。単体では動かない |
| マクロウイルス | 文書ファイルのマクロ機能を悪用して感染する | 実行ファイルでなく文書経由 |
| ワーム | 単体で自己増殖し、ネットワーク越しに広がる | 宿主が不要。感染拡大が速い |
| トロイの木馬 | 正規のソフトを装って導入され、裏で不正動作をする | 自己増殖しない |
| ランサムウェア | ファイルを暗号化し、復号と引換えに金銭を要求する | 盗んだデータの公開も脅す手口を二重脅迫という |
| スパイウェア | 利用者の情報を収集して外部へ送信する | 目的は情報収集 |
| キーロガー | キーボード入力を記録して盗む | パスワードやカード番号が狙い |
| ボット(RAT) | C&C サーバからの指令で遠隔操作される | 多数を束ねたものがボットネット |
| ルートキット | 侵入の痕跡や自身の存在を隠蔽するツール群 | 「隠す」ことが役目 |
| バックドア | 正規の認証を迂回して侵入できる裏口 | 再侵入のために作られる |
| ファイルレスマルウェア | ディスクにファイルを置かず、OS 標準機能とメモリ上だけで動く | パターンマッチングで検出しにくい |
| ポリモーフィック型・メタモーフィック型 | 感染のたびに自身のコードを変化させる | 定義ファイルによる検出をかわすステルス技術 |
| エクスプロイトコード・エクスプロイトキット | 脆弱性を突く実証コードと、その悪用を自動化する道具 | 攻撃の「弾」であってマルウェア本体ではない |
ボットは 1 台でも厄介ですが、脅威の本体は多数のボットを束ねたボットネットです。攻撃者(ボットハーダー)は感染端末に直接命令せず、C&C サーバ(Command and Control サーバ)を経由して指令を配ります。図 11-1 の破線が指令と攻撃の流れです。感染側の通信は「外向きの見慣れない宛先への定期的な接続」として現れるので、ファイアウォールや URL フィルタリングで C&C 通信を遮断できれば、感染しても被害の進行を止められます。
攻撃者は一枚岩ではありません。既製のツールを使うだけのスクリプトキディ、ボットネットを操るボットハーダー、政治的主張のために攻撃するハクティビズム、社会機能の破壊を狙うサイバーテロリズム、そして権限を持つ内部犯がいます。動機の側から分けると、腕試しや目立ちたさで行う愉快犯、金銭をだまし取る詐欺犯、違法と分かったうえで行う故意犯になります。設計の段階で「どこがどう狙われるか」を洗い出し、対策の優先順位を決める作業を脅威モデリングと呼びます。金銭目的の攻撃はサービス化が進み、ランサムウェアを道具として貸し出す RaaS(Ransomware as a Service)や、盗んだデータを公開するリークサイト、匿名で売買が行われるダークウェブが背景にあります。
内部不正は、不正のトライアングル(機会・動機・正当化)の 3 条件がそろったときに起きるとされます。技術的対策で「機会」を減らすだけでなく、ログを取得していることの周知や処遇の改善で「動機」「正当化」を断つ発想が、科目 B の理由記述で問われます。「機会」を環境の側から取り除く考え方には、犯行が成立しにくい状況をあらかじめ作る状況的犯罪予防、小さな乱れを放置すると重大な不正を招くとする割れ窓理論、建物や設備の設計段階から犯罪を起こしにくくする防犯環境設計があります。
攻撃手法(1)パスワードと Web アプリケーション
シラバスの「攻撃手法」は科目 A で直近 10 年 33 問と、中分類 11 の中で最も厚い小分類です。攻撃名を丸暗記するのではなく、手口 → 直接起きること → 効く対策の 3 点セットで覚えると、定義選択でも対策選択でも同じ知識が使えます。まずパスワードを狙う攻撃から見ます。
| 攻撃 | 手口 | 効く対策/効かない対策 |
|---|---|---|
| 辞書攻撃 | よく使われる単語のリストを 1 つの ID に順に試す | 試行回数制限が効く。単語をそのまま使わせない |
| 総当たり(ブルートフォース)攻撃 | 文字の全組合せを 1 つの ID に順に試す | 試行回数制限と桁数・文字種の拡大が効く |
| リバースブルートフォース攻撃 | パスワードを 1 つ固定し、ID の側を次々に変えて試す | 試行回数制限(アカウントロック)が効かない。1 つの ID には 1 回しか試さないため |
| パスワードリスト攻撃(クレデンシャルスタッフィング) | 他サイトから漏えいした ID とパスワードの組をそのまま試す | パスワードの使い回しをやめる、多要素認証。桁数を増やしても効かない |
| レインボーテーブル攻撃 | 平文とハッシュ値をつないだチェーンの表を用意し、盗んだハッシュ値から元のパスワードを逆引きする | ソルト(利用者ごとに異なる値を混ぜてハッシュ化)で表が使えなくなる |
図 11-2 は、横軸にパスワード候補・縦軸に利用者 ID を取った「組合せの平面」の上で、3 つの攻撃がどの向きに探索するかを示したものです。アカウントロックは「同じ ID への連続失敗」を数える仕組みなので、横に走る攻撃には効き、縦に走る攻撃には効かない、と平面で見ると一目で分かります。
計算の型: パスワードの総組合せ数
総組合せ数 = Mn(M: 使用できる文字の種類数、n: パスワードの桁数)
例題 英小文字 26 種と数字 10 種を使える 6 桁のパスワードは何通りか。また 8 桁にすると何倍になるか。
- 文字種を数える: 26 + 10 = 36 種。桁数は 6 なので M = 36、n = 6
- 総数を求める: 366 = 2,176,782,336(約 2.2 × 109)通り
- 桁を 2 桁増やしたときの比を取る: 368 ÷ 366 = 362 = 1,296 倍
答え 約 2.2 × 109 通り。8 桁にすると 1,296 倍になる。桁数は指数、文字種は底に効くので、1 桁増やす効果のほうが文字種を少し増やすより大きいのがこの型の要点です。科目 B でも「文字種桁数」の形で 1 度だけ計算が出ています(指数のまま答えてよい形式)。
次に Web アプリケーションへの攻撃です。入力値が「データ」ではなく「命令」として解釈されてしまうのがインジェクション系、ブラウザに他人の意図した動作をさせるのがクロスサイト系、と大きく 2 つに分けて覚えます。
| 攻撃 | 直接起きること | 代表的な対策 |
|---|---|---|
| クロスサイトスクリプティング(XSS) | 罠から送り込まれた文字列がページに出力され、閲覧者のブラウザでスクリプトが実行される | 出力時のエスケープ処理 |
| クロスサイトリクエストフォージェリ(CSRF) | ログイン済みの利用者に、本人の意図しない更新要求を送信させる | 推測不能なトークンを画面に埋め込み照合する、重要操作の再認証 |
| クリックジャッキング | 透明にした別サイトの画面を重ね、意図しないボタンを押させる | 他サイトのフレーム内への表示を禁止する |
| SQL インジェクション | 入力値が SQL 文の一部として解釈され、データベースを不正に読み書きされる | プレースホルダ(バインド機構)を使う |
| OS コマンドインジェクション | 入力値が OS のコマンドとして実行される | シェル呼出しを避け、入力値を検証する |
| ディレクトリトラバーサル | 相対パス表記でファイル名を細工され、公開範囲外のファイルを読み出される | ファイル名を外部から直接受け取らない、パス名を正規化する |
| バッファオーバーフロー | 想定を超える長さの入力でメモリ領域を溢れさせ、任意のコードを実行される | 境界チェック、安全な関数の使用 |
| オープンリダイレクトの悪用 | 遷移先 URL を外部から指定でき、正規サイト経由で偽サイトへ飛ばされる | 遷移先を許可リストで限定する |
| セッションハイジャック | セッション ID を推測・盗聴・固定化され、他人になりすまされる | 乱数性の高い ID、通信の暗号化、ログイン後の ID 再発行 |
| ドライブバイダウンロード | サイトを閲覧しただけでマルウェアが自動的にダウンロード・実行される | OS・ブラウザ・プラグインの更新、URL フィルタリング |
攻撃手法(2)ネットワークと人を狙う攻撃
ネットワーク層の攻撃は「詐称するもの」で整理できます。IP アドレスを詐称するのが IP スプーフィング、MAC アドレスを詐称するのが ARP スプーフィング、名前解決の結果を詐称するのが DNS キャッシュポイズニングです。
| 攻撃 | 直接起きること | 要点 |
|---|---|---|
| DoS 攻撃 | 大量の要求や不正なパケットでサービスが応答できなくなる | 可用性への攻撃 |
| DDoS 攻撃 | 多数の踏み台から一斉に DoS を仕掛けられる | 送信元が分散するため遮断が難しい |
| リフレクション(反射)攻撃 | 送信元 IP を標的に詐称して公開サーバへ問い合わせ、その応答が標的に集中する | 応答が問合せより大きいと増幅される。オープンリゾルバの悪用が典型 |
| DNS キャッシュポイズニング | キャッシュ DNS サーバが偽の名前解決情報を覚え、利用者が偽の Web サーバへ誘導される | 直接起きるのは誘導であって、情報の詐取や改ざんは二次被害 |
| ARP スプーフィング | 偽の ARP 応答で MAC アドレスを詐称し、同一 LAN 内の通信を横取りされる | ルータを越えない、LAN 内限定の攻撃 |
| 中間者(Man-in-the-middle)攻撃 | 通信経路に割り込まれ、盗聴・改ざんされる | 相手の正当性を証明書で確認して防ぐ |
| MITB(Man-in-the-browser)攻撃 | ブラウザに潜んだマルウェアが送信直前の内容を書き換える | 経路を暗号化しても防げない(暗号化の内側で書き換わる) |
| IP スプーフィング | 送信元 IP アドレスを詐称され、送信元による識別が破られる | リフレクション攻撃の前提技術 |
| リプレイ攻撃 | 盗み取った認証データをそのまま再送されて認証を通される | 使い捨ての乱数(チャレンジ)で防ぐ |
| 第三者中継(オープンリレー) | 設定不備のメールサーバが迷惑メールの中継に使われる | 自組織が加害者側になる |
| クリプトジャッキング | 他人の機器の計算資源を無断で暗号資産の採掘に使われる | 資源の枯渇として現れる |
DNS キャッシュポイズニングは中分類 11 の中で最多クラスの 6 回出題(攻撃そのものが 4 回、対策が 2 回)です。図 11-3 のように、キャッシュ DNS サーバが本物の権威 DNS サーバの応答を待っている隙に、攻撃者が正規の応答より早く偽の応答を届けるのが手口です。キャッシュは偽の IP アドレスを一定期間覚えてしまうので、その間に問い合わせた利用者全員が偽サイトへ誘導されます。
人をだます攻撃も出題されます。標的の組織向けに文面を作り込んだメールを送る標的型攻撃、その中でも長期間潜伏して継続的に侵害する APT(Advanced Persistent Threat)、標的がよく見るサイトを改ざんして待ち伏せる水飲み場型攻撃、業務のやり取りを装って複数回メールを交わしてから添付ファイルを送るやり取り型攻撃、取引先や経営者になりすまして送金させるビジネスメール詐欺(BEC)、偽サイトへ誘導して認証情報を入力させるフィッシング(SMS を使うものはスミッシング)が代表格です。検索結果の上位に悪意のあるサイトを表示させる SEO ポイズニング、取引先や委託先、ソフトウェアの配布経路を踏み台にするサプライチェーン攻撃も近年の題材になっています。技術を使わず、電話や訪問で情報を聞き出したり、肩越しに画面をのぞき見たり(ショルダーハッキング)、廃棄書類をあさったりする手口を総称してソーシャルエンジニアリングと呼びます。
修正プログラムが提供される前の脆弱性を突く攻撃をゼロデイ攻撃といいます。定義ファイルの更新やパッチ適用では防げないため、振る舞い検知や、機能の一時停止・回避策といった暫定対応が問われます。また、AI を悪用した攻撃も用語例に加わりました。実在の人物の映像や音声を偽造するディープフェイク、AI モデルが誤認識するよう細工した入力を与える敵対的サンプル、生成 AI に不正な指示を紛れ込ませて本来の制約を外させるプロンプトインジェクションを押さえておきます。
攻撃の段階と脆弱性情報
標的型攻撃は 1 回のメールで完結しません。攻撃者の行動を時系列で 7 段階に分けたモデルがサイバーキルチェーンで、科目 A では「偵察の段階に当たるのはどれか」「エクスプロイトの段階はどれか」という形で問われます。図 11-4 の並びと、各段階で攻撃者が何をするかをセットで覚えます。
①の偵察で使われるのが、公開情報から組織の構成を調べるフットプリンティングと、稼働中のサービスを探るポートスキャンです。こうした探索は、到達可能でありながら使われていない IP アドレス空間であるダークネットを観測することで、攻撃の傾向として外側から把握できます(直近 10 年で 2 回出題)。⑤〜⑦の段階では、侵入した 1 台を足がかりに社内の他の端末やサーバへ横方向に侵害を広げるラテラルムーブメントが行われます。攻撃者の戦術(何を狙うか)と技術(どうやるか)を体系化した知識ベースが MITRE ATT&CK で、キルチェーンより細かい粒度で攻撃の振る舞いを分類し、検知ルールの設計に使われます。
攻撃の材料になる脆弱性の情報は、共通の識別子と評価尺度で流通しています。名前が似ているので混同しないよう、「番号(CVE)・点数(CVSS)・種類(CWE)・国内ポータル(JVN)」と対応づけて覚えます。
| 略語 | 正式名称 | 役割 |
|---|---|---|
| CVE | Common Vulnerabilities and Exposures | 個別の脆弱性に一意の識別番号を付け、どの脆弱性の話かを共通の名前で指せるようにする |
| CVSS | Common Vulnerability Scoring System | 脆弱性の深刻度を数値で評価する。基本評価基準・現状評価基準・環境評価基準の 3 つで構成される |
| CWE | Common Weakness Enumeration | 脆弱性の「種類」を分類する(バッファオーバーフロー、不適切な入力検証などの型) |
| JVN | Japan Vulnerability Notes | 国内向けの脆弱性対策情報ポータル。JPCERT コーディネーションセンターと IPA が共同で運営する |
暗号技術 ― 共通鍵・公開鍵・ハイブリッド
暗号方式は科目 A で直近 10 年 12 問(うち共通鍵暗号方式が 5 問、楕円曲線暗号が 2 問)と、暗号分野の中で最も出る小分類です。共通鍵暗号は暗号化と復号に同じ鍵を使い、公開鍵暗号は対になった 2 つの鍵を使います。この 1 行の差から、速度・鍵の数・課題のすべてが導けます。
| 観点 | 共通鍵暗号方式 | 公開鍵暗号方式 |
|---|---|---|
| 鍵 | 暗号化と復号に同じ鍵を使う(秘密にする) | 公開鍵と秘密鍵の対を使う。片方で処理したものは他方でしか戻せない |
| 代表的な方式 | AES、DES、3DES(DES は鍵長 56 ビットで危殆化) | RSA、楕円曲線暗号(ECC) |
| 安全性の根拠 | 換字と転置を多段に繰り返す構造 | 素因数分解(RSA)や離散対数問題(ECC)の計算量的な困難さ |
| 処理速度 | 速い。大量データの暗号化に向く | 遅い。本文の暗号化には使わないのが普通 |
| n 人が相互に通信するときの鍵の総数 | n(n − 1) ÷ 2 個 | 2n 個(1 人につき公開鍵と秘密鍵を 1 個ずつ) |
| 主な課題 | 鍵配送問題。相手に鍵を安全に渡す手段が別に要る | 受け取った公開鍵が本人のものかを保証する仕組み(PKI)が要る |
鍵の総数は図 11-5 のように 4 人で描くと違いが見えます。共通鍵は「線の本数」、公開鍵は「人数 × 2」です。人数が増えたときの伸び方が二次関数と一次関数で違う点が、この計算問題の狙いどころです。
計算の型: 必要な鍵の数
共通鍵暗号 … n(n − 1) ÷ 2 個 / 公開鍵暗号 … 2n 個(n は利用者の人数)
例題 100 人が互いに暗号通信をするとき、共通鍵暗号方式と公開鍵暗号方式で必要な鍵はそれぞれ何個か。
- 共通鍵は「相手ごとに 1 個」なので、組合せの数を数える: 100 × 99 ÷ 2 = 4,950 個
- 公開鍵は「人ごとに 2 個」なので、人数を 2 倍する: 100 × 2 = 200 個
- 単位に注意する。公開鍵側を「鍵ペアの数(100 組)」と答えさせる出題もあるため、問題文が個数を聞いているか組数を聞いているかを確認する
答え 共通鍵 4,950 個、公開鍵 200 個。公開鍵の鍵数(2n)は令和 6 年春の科目 A で計算問題として出題されており、この 10 年でセキュリティ分野に出た計算問題は本問とパスワード総数の 2 問だけです。
公開鍵暗号はどちらの鍵で処理し、どちらの鍵で戻すかで用途が変わります。ここを取り違えさせるのが定番の誤答肢です。
| 目的 | 処理に使う鍵 | 戻す(検証する)鍵 |
|---|---|---|
| 機密性を守る(暗号化) | 受信者の公開鍵 | 受信者の秘密鍵 |
| 本人性を示す(デジタル署名) | 送信者の秘密鍵 | 送信者の公開鍵 |
実際の通信では、この 2 方式を組み合わせたハイブリッド暗号を使います。本文は速い共通鍵暗号で暗号化し、その共通鍵(セッション鍵)だけを受信者の公開鍵で暗号化して一緒に送る、という組立てです(図 11-6)。TLS も S/MIME もこの構造です。ただし TLS 1.3 では鍵交換に (EC)DHE を用いており、共通鍵を公開鍵でそのまま暗号化する方式ではありません。
ブロック暗号は平文を固定長のブロックに区切って処理します。区切ったブロックをどうつなぐかを決めるのが暗号利用モードです。
| モード | 仕組み | 特徴 |
|---|---|---|
| ECB | ブロックごとに独立して暗号化する | 同じ平文ブロックが同じ暗号文になり、パターンが見える。実用では使わない |
| CBC | 直前の暗号文ブロックと排他的論理和を取ってから暗号化する。先頭は初期化ベクトル(IV)を使う | 同じ平文でも異なる暗号文になる。暗号化は逐次処理 |
| CTR | カウンタ値を暗号化した列を作り、平文と排他的論理和を取る | ブロック間に依存がなく並列処理・ランダムアクセスができる |
| GCM | CTR による暗号化に認証タグの生成を組み合わせる | 機密性と完全性を同時に得られる認証付き暗号。TLS で広く使われる |
暗号の安全性は永続しません。計算機の性能向上や解読手法の進歩で、かつて安全だった方式や鍵長が実用的な時間で破られるようになることを危殆化といいます。DES(鍵長 56 ビット)はすでに危殆化し、AES への移行が済んでいます。国内では CRYPTREC が電子政府における調達で利用可能な暗号技術のリスト(CRYPTREC 暗号リスト)を公開しており、方式選定の根拠になります。暗号の強度は鍵長だけでなく乱数の質にも依存し、予測可能な擬似乱数で鍵や初期化ベクトルを作ると総当たり以前に破られます。
保存データの保護では、ディスク全体を暗号化するストレージ暗号化と、個々の文書を暗号化するファイル暗号化を使い分けます。機器を廃棄する際に、暗号化された媒体の鍵だけを破棄して復号不能にする手法を暗号化消去(CE)といい、物理破壊より短時間で確実に無害化できます。将来の脅威としては、量子計算機が現在の公開鍵暗号を破る可能性が指摘されており、量子計算機でも解けないとされる耐量子計算機暗号への移行と、量子力学の性質で盗聴を検知する量子鍵配送の研究が進んでいます。鍵を安全に共有する方式としては Diffie-Hellman 鍵共有があり、通信路上に鍵そのものを流さずに共通鍵を作れます。
残りの用語は、名前と役割を 1 行で結び付けておけば十分です。
| 用語 | 役割 |
|---|---|
| ストリーム暗号 | 平文をビットまたはバイト単位で逐次暗号化する方式。固定長のまとまりで処理するブロック暗号と対になる分類 |
| 鍵管理・鍵の世代管理 | 鍵の生成・配布・保管・更新・廃棄を統制すること。鍵を更新しても過去のデータを復号できるよう、世代を分けて保管する |
| 秘密計算 | データを暗号化したまま計算し、中身を相手に明かさずに計算結果だけを得る技術 |
| ゼロ知識証明 | 秘密の値そのものを渡さずに、「その値を知っている」ことだけを相手に納得させる証明方法 |
| ブロックチェーン | 取引記録のかたまりをハッシュ値で数珠つなぎにし、1 か所を改ざんすると以降すべての整合が崩れる構造。分散台帳として単一の管理者を置かずに運用する |
ハッシュ関数・メッセージ認証・デジタル署名
ハッシュ関数は、任意の長さのデータから固定長の値(メッセージダイジェスト、ハッシュ値)を計算する関数です。暗号化と違って元に戻す操作が用意されていません。この「戻せない」性質を逆に利用して、改ざんの検知・パスワードの保存・デジタル署名の 3 つを実現します。試験で定義文が問われる性質は次の 3 つです。
- 一方向性: ハッシュ値から元のデータを求めることが計算量的に困難である
- 第二原像発見困難性: あるデータと同じハッシュ値になる別のデータを見つけることが困難である
- 衝突発見困難性: 同じハッシュ値になるデータの組を見つけることが困難である
代表的な方式は SHA-256 を含む SHA-2 系と SHA-3 です。MD5 と SHA-1 は衝突を現実的な計算量で作れることが示されて危殆化しており、改ざん検知や署名に使ってはいけません。ハッシュ値の長さは入力の長さに関係なく一定で、SHA-256 なら 1 文字のファイルでも 1 G バイトのファイルでも 256 ビットになります。ファイル配布時に公開されたハッシュ値と手元で計算した値を比べる、改ざん検知型の監視で正常時のハッシュ値と比較する、といった使い方はここから来ています。
ハッシュ関数だけでは「そのダイジェストを誰が作ったか」が分かりません。そこで共通鍵を混ぜてハッシュ値を計算し、鍵を持つ者だけが同じ値を再現できるようにしたものがメッセージ認証コード(MAC: Message Authentication Code)で、ハッシュ関数を用いる代表的な構成が HMAC です。MAC は完全性と送信元の真正性を同時に確認できますが、鍵を送信者と受信者が共有しているので受信者側でも同じ MAC を作れます。そのため「送信者が確かに送った」と第三者に対して示す否認防止には使えません。ここを埋めるのがデジタル署名です。
デジタル署名は、本文のダイジェストを送信者の秘密鍵(署名鍵)で変換した値です。受信者は送信者の公開鍵(検証鍵)で署名を戻し、自分で計算したダイジェストと一致するかを確かめます(図 11-7)。本文全体ではなくダイジェストに対して処理するのは、公開鍵暗号の処理が遅く、長い本文をそのまま扱うと実用にならないからです。
署名で分かるのは「本文が途中で変わっていないこと(完全性)」と「秘密鍵の持ち主が作ったこと(真正性・否認防止)」です。本文は暗号化されていないので、機密性は別に確保しなければなりません。3 つの技術の役割分担を整理します。
| 技術 | 使う鍵 | 保証できること |
|---|---|---|
| ハッシュ値の比較 | 鍵を使わない | 完全性。ただしハッシュ値そのものが正しく届く前提が要る |
| MAC(HMAC) | 送信者と受信者が共有する共通鍵 | 完全性 + 真正性。受信者も同じ値を作れるので否認防止は不可 |
| デジタル署名 | 作成は送信者の秘密鍵、検証は送信者の公開鍵 | 完全性 + 真正性 + 否認防止。機密性は無い |
署名を応用した技術も用語例に挙がっています。文書が「いつ」存在したかを第三者(時刻認証局)が保証するタイムスタンプ(時刻認証)、XML 文書の一部分だけに署名できる XML デジタル署名、配布するソフトウェアに開発元が署名して改ざんとなりすましを防ぐコードサイニングです。コードサイニングは令和 7 年秋の科目 A で証明書の側から出題されています。
PKI ― デジタル証明書と失効確認
公開鍵暗号もデジタル署名も、「その公開鍵が本当に相手のものである」という前提が崩れると成立しません。攻撃者が自分の公開鍵を相手の名前で配れば、中間者攻撃がそのまま通ります。この前提を社会的な仕組みで支えるのが PKI(Public Key Infrastructure: 公開鍵基盤)です。中心にいるのが認証局(CA: Certification Authority)で、申請者の実在を確認したうえで「この公開鍵はこの人のものです」という内容に CA 自身の秘密鍵で署名します。この署名付きのデータがデジタル証明書(公開鍵証明書)で、書式は X.509 が標準です。
| 証明書に入っている主な項目 | 意味 | 検証で使われ方 |
|---|---|---|
| 所有者(サブジェクト) | 証明書の持ち主。サーバ証明書ならサーバのドメイン名 | 接続先のドメイン名と一致するかを照合する |
| 所有者の公開鍵 | 証明したい対象そのもの | この鍵で以後の暗号化や署名検証を行う |
| シリアル番号 | 発行元 CA の中で証明書を一意に指す番号 | 失効リストに載るのはこの番号 |
| 有効期間 | いつからいつまで有効か | 期限切れは失効とは別の概念として扱う |
| 発行者(CA 名)と CA の署名 | 誰が保証したか | 発行者の公開鍵で署名を検証する |
1 つの CA が世界中の証明書を直接発行しているわけではありません。最上位のルート CA が中間 CA の証明書に署名し、中間 CA が利用者の証明書に署名する、という連鎖(証明書チェーン)になっています。ルート CA の証明書は通常、自分自身の秘密鍵で署名した自己署名証明書で、これを検証する上位はありません。代わりに OS やブラウザにあらかじめ組み込まれたルート証明書を無条件に信頼する、という約束で連鎖を打ち止めにします。この起点をトラストアンカー(信頼の基点)と呼びます。
証明書は用途で名前が変わります。Web サーバの身元を示すサーバ証明書、利用者の端末や個人を示すクライアント証明書、配布するソフトウェアに開発元が署名するためのコードサイニング証明書です。サーバ証明書はさらに審査の深さで分かれ、ドメインの管理権だけを確認する DV、組織の実在を確認する OV、より厳格な審査で運営組織を確認する EV があります。DV と EV の違いは科目 B(令和 3 年春)で正答率が低かった論点で、「暗号の強度は変わらず、確認される組織の実在性の深さが違う」と押さえます。政府機関の認証基盤である GPKI(政府認証基盤)や、異なる PKI 同士を相互に信頼させるブリッジ認証局(BCA)も用語例に含まれます。
証明書は有効期間内でも無効にしなければならないことがあります。秘密鍵が漏えいした、記載内容が変わった、組織がなくなった、といった場合です。これが失効で、期間が過ぎただけの有効期限切れとは別物です。失効した証明書を検証側が知る手段は 2 つあります(図 11-9)。
これらを実際に使っているのが TLS(Transport Layer Security)です。TLS は 1 つのプロトコルで、サーバ認証・鍵共有・暗号化・完全性の確認をまとめて行います。接続開始時のやり取り(ハンドシェイク)は次の順に進みます。
- クライアントが、対応できる暗号方式の一覧(暗号スイート)と乱数を送る
- サーバが、使う暗号方式を 1 つ選んで返し、あわせてサーバ証明書を送る
- クライアントが証明書を検証する。CA の公開鍵で署名を確かめ、有効期間・失効の有無・接続先ドメイン名との一致を見る
- 両者で鍵の材料を交換し、同じ共通鍵(セッション鍵)を作る
- 以降の通信は共通鍵暗号で暗号化し、MAC または認証付き暗号で完全性も守る
③でサーバの身元を確かめてから④で鍵を作るので、中間者攻撃を防げます。逆にいえば、証明書の警告を利用者が無視して先に進むと、この防御は成立しません。TLS 1.3 ではハンドシェイクの往復が短縮され、危殆化した暗号方式が仕様から削除されました。なお、旧称の SSL は既に使われていませんが、実務では「SSL/TLS」と併記されることがあります。
認証と認可 ― 利用者を確かめ、権限を与える
まず 2 つの言葉を分けます。認証は「相手が名乗っているとおりの本人か」を確かめることで、認可は「その相手に何をしてよいと認めるか」を与えることです。認証が済んでも認可の範囲は別に決まります。科目 B では、認証を強化する施策と権限を絞る施策を取り違えた解答が誤答例として挙がるので、この区別が土台になります。
認証の 3 要素とパスワードの保護
認証に使える材料は 3 種類しかありません。この 3 つのうち異なる種類を 2 つ以上組み合わせるのが多要素認証です。パスワードを 2 回入力させるように同じ種類を重ねても、段階が増えるだけの多段階認証であって多要素にはなりません。
| 要素 | 例 | 弱点 |
|---|---|---|
| 知識(記憶) | パスワード、PIN コード、秘密の質問 | 漏えい・推測・使い回しに弱い |
| 所持(所有) | IC カード、スマートフォン、セキュリティトークン | 紛失・盗難で第三者に渡る |
| 生体 | 指紋、静脈、虹彩、顔、声紋 | 変更できない。誤りの確率がゼロにならない |
知識による認証の中心はパスワードです。サーバ側にパスワードをそのまま保存すると、データベースが漏えいした時点で全員分が使われてしまいます。そこで次の 4 段階で守ります。
| 手法 | 何をするか | 何を防ぐか |
|---|---|---|
| ハッシュ化 | パスワードそのものではなくハッシュ値を保存する | 漏えいしても平文がそのままは分からない |
| ソルト | 利用者ごとに異なる値を連結してからハッシュ化する | レインボーテーブルの使い回し。同じパスワードの利用者が同じハッシュ値になること |
| ペッパー | データベースとは別の場所に置いた共通の秘密値を混ぜる | データベースだけが漏えいした場合の解析(秘密値が手に入らない) |
| ストレッチング | ハッシュ計算を数千〜数万回繰り返す | 1 件あたりの試行時間を延ばし、総当たり・辞書攻撃を割に合わなくする |
運用側の対策が試行回数制限(アカウントロック)です。ただし図 11-2 で見たとおり、同じ ID に何度も試さないリバースブルートフォース攻撃やパスワードリスト攻撃には効きません。効く攻撃と効かない攻撃を対にして覚えます。
ワンタイムパスワードとリスクベース認証
盗聴されても再利用できないようにする発想がワンタイムパスワード(OTP)です。方式は 2 つあります。1 つは時刻同期方式で、トークンとサーバが同じ時刻と共有情報から一定間隔で同じ値を生成します。もう 1 つがチャレンジレスポンス認証で、手順は次のとおりです。
- 利用者が ID をサーバへ送る
- サーバが毎回異なる乱数(チャレンジ)を返す
- 利用者側でチャレンジとパスワード(のハッシュ値)から計算した値(レスポンス)を返す
- サーバも同じ計算をして、一致すれば本人と判断する
この方式ではパスワードそのものがネットワークを流れません。しかもチャレンジが毎回変わるので、通信を丸ごと記録して再送するリプレイ攻撃も通りません。「盗聴とリプレイの両方に効く」がこの方式の答え方です。
リスクベース認証は、普段と違う場所・端末・時間帯からのアクセスを検知したときだけ追加の認証を求める方式です。通常時の利便性を落とさずに、なりすましの成功率を下げます。クレジットカードの本人認証である EMV 3-D セキュア(3D セキュア 2.0)も、取引の内容から危険度を判定して必要なときだけ追加認証を求める仕組みで、同じ考え方です。人ではなく機械による自動入力をふるい落とす仕掛けが CAPTCHA で、こちらは本人確認ではなく「人間かどうか」の判定である点に注意します。
所持による認証では、耐タンパ性を持つ IC カードと、それを本人が使っていることを示す PIN コードを組み合わせるのが基本形です。パスワードそのものをなくす方向の技術が FIDO で、端末側で生体認証を行う FIDO UAF、既存のパスワードに鍵を足す FIDO U2F、そして FIDO2 と WebAuthn の組合せがあります。パスワードレス認証(パスキー)では、秘密鍵を利用者の端末内に置き、サーバへは公開鍵だけを登録します。サーバ側にパスワードが存在しないので、漏えいしても使い回し被害が起きません。
生体認証と 2 つの誤り率
生体認証は、指紋・静脈・虹彩・顔・網膜といった身体的特徴と、声紋・署名(筆跡や筆圧)といった行動的特徴に分かれます。指紋認証で隆線の分岐点や端点の位置関係を特徴量として使う方式をマニューシャ方式といいます。生体認証は「合っている/いない」を割り切れないため、必ず 2 種類の誤りが残ります。
- 本人拒否率(FRR: False Rejection Rate): 本人なのに拒否してしまう割合。高いと利用者が使えず苦情になる
- 他人受入率(FAR: False Acceptance Rate): 他人なのに受け入れてしまう割合。高いとなりすましを許す
この 2 つは判定のしきい値を通じて一方を下げるともう一方が上がる関係にあります(図 11-10)。どちらを優先するかは用途で決まり、入退室管理のように安全性を優先する場面ではしきい値を厳しく(FAR を下げる)、大量の利用者をさばく場面では利便性側に寄せます。
シングルサインオンと認可の仕組み
利用するサービスが増えるほど、ID とパスワードの管理は破綻します。1 回の認証で複数のサービスを使えるようにする仕組みがシングルサインオン(SSO)で、認証を専門に担うサーバを IdP(Identity Provider)、それをクラウドサービスとして提供する形態を IDaaS と呼びます。関連する技術の役割は次のとおりです。
| 技術 | 何をするものか | 混同しやすい点 |
|---|---|---|
| SAML | XML 形式の認証情報(アサーション)を IdP からサービス側へ渡し、SSO を実現する | 企業向け SSO の標準。認証の連携が目的 |
| OAuth 2.0 | 認可の委譲。パスワードを渡さずに、アクセストークンで他のサービスへ限定した権限を与える | これ自体は「誰であるか」を伝える仕組みではない |
| OpenID Connect | OAuth 2.0 を土台に ID トークンを加え、認証の結果も伝えられるようにしたもの | OAuth 2.0 との違いは認証を扱うかどうか |
| Kerberos 方式 | チケットを発行して認証を行う。共通鍵暗号を基礎とする | 社内ネットワークのドメイン認証で使われる |
認証の先にある認可は、アクセス制御として実装します。誰が権限を決めるかで 3 つに分かれます。
| 方式 | 権限を決める主体 | 特徴 |
|---|---|---|
| 任意アクセス制御(DAC) | 情報の所有者 | 所有者が自分の裁量で他人に許可を与えられる。柔軟だが統制しにくい |
| 強制アクセス制御(MAC) | システム(管理者が定めた規則) | 所有者でも規則を覆せない。機密区分を扱う用途に向く |
| ロールベースアクセス制御(RBAC) | 職務(ロール)の定義 | 権限をロールに、ロールを人に割り当てる。異動時の付け替えが容易 |
どの方式でも指針は同じで、業務に必要な最小限の権限だけを与える最小権限の原則(need-to-know の原則)です。退職者のアカウントを残さない、共用アカウントを作らないといった運用が、責任追跡性の確保にもつながります。
ひっかけポイント
理解度チェック(科目 A 形式)
Q1. JIS Q 27000 が定める特性のうち、ある操作を行った主体をその主体まで一意にたどれることを確実にするものはどれか。
- 可用性
- 責任追跡性
- 真正性
- 否認防止
正解: イ 責任追跡性は、ある行為を実行した主体まで一意に追跡できることを確実にする特性です。ア の可用性は認可された者が必要なときに利用できること、ウ の真正性は主体や情報が本物であることの確実さ、エ の否認防止は行為を後から否定されないことを証明できる特性で、追跡そのものを指すものではありません。責任追跡性と否認防止の入替えが最も多い誤答パターンです。
Q2. 共通鍵暗号方式に分類されるものはどれか。
- AES
- RSA
- SHA-256
- 楕円曲線暗号
正解: ア AES はブロック暗号で、暗号化と復号に同じ鍵を使う共通鍵暗号方式です。イ の RSA と エ の楕円曲線暗号は公開鍵と秘密鍵の対を使う公開鍵暗号方式です。ウ の SHA-256 はハッシュ関数で、そもそも復号する操作がないため暗号方式ではありません。
Q3. パスワードを 1 つ固定したまま、利用者 ID を次々に変えてログインを試みる攻撃はどれか。
- 辞書攻撃
- パスワードリスト攻撃
- リバースブルートフォース攻撃
- レインボーテーブル攻撃
正解: ウ 探索の向きが通常と逆で、1 つの ID には 1 回しか試さないため、ID ごとの失敗回数を数えるアカウントロックが働きません。ア の辞書攻撃は 1 つの ID に単語リストを順に試す攻撃、イ のパスワードリスト攻撃は他サイトから漏えいした ID とパスワードの組をそのまま試す攻撃、エ のレインボーテーブル攻撃は盗んだハッシュ値から元のパスワードを逆引きする手法で、ログイン試行を伴いません。
Q4. パスワードをハッシュ値で保存する際、利用者ごとに異なる値を連結してからハッシュ化する。この処理によって最も効果的に困難になる攻撃はどれか。
- SQL インジェクション
- セッションハイジャック
- パスワードリスト攻撃
- レインボーテーブル攻撃
正解: エ 利用者ごとに異なるソルトを混ぜると、あらかじめ用意したハッシュ値の表が使い回せなくなり、レインボーテーブル攻撃が成立しなくなります。ウ のパスワードリスト攻撃は正しい ID とパスワードの組をそのまま入力するため、保存側のソルトの有無に関係なく成立します。ア は入力値が SQL 文として解釈される問題、イ はセッション ID の管理の問題で、いずれもパスワードの保存方法とは別の対策が必要です。
Q5. ログイン済みの利用者のブラウザから、利用者が意図しない更新処理の要求を対象サイトへ送信させる攻撃はどれか。
- クリックジャッキング
- クロスサイトスクリプティング
- クロスサイトリクエストフォージェリ
- ディレクトリトラバーサル
正解: ウ 罠サイトを読み込ませるだけで、ログイン済みの資格情報が付いた更新要求が対象サイトへ送られ、サーバ側で本人名義の処理が実行されます。対策は推測不能なトークンの照合です。ア のクリックジャッキングは透明化した画面を重ねてクリックさせる手口、イ のクロスサイトスクリプティングは閲覧者のブラウザ上でスクリプトを実行させる攻撃、エ のディレクトリトラバーサルは公開範囲外のファイルを読み出させる攻撃です。
Q6. DNS キャッシュポイズニング攻撃が成功したときに、直接起こる現象はどれか。
- 権威 DNS サーバのゾーン情報が書き換えられる
- 利用者が意図したものとは異なる Web サーバへ誘導される
- 組織内部の利用者情報が攻撃者へ送信される
- DNS サーバが大量の問合せで応答できなくなる
正解: イ キャッシュ DNS サーバが偽の名前解決情報を保持するため、その名前を問い合わせた利用者が偽のサーバへ誘導されます。ウ の情報の詐取は誘導された先で起きる二次被害です。ア は権威サーバ自体への侵入やゾーン転送の悪用による別の事象、エ は DoS 攻撃の結果です。
Q7. 暗号処理中の機器の消費電力を測定し、その統計処理によって暗号鍵を推定する攻撃はどれか。
- 電力解析攻撃
- ゼロデイ攻撃
- バージョンロールバック攻撃
- リプレイ攻撃
正解: ア 電力解析攻撃はサイドチャネル攻撃の一種で、アルゴリズムを数学的に解くのではなく、処理に伴う物理量を外から観測して鍵を推定します。対策は耐タンパ性を持たせることです。イ は修正プログラム提供前の脆弱性を突く攻撃、ウ は古い脆弱な版の使用を強いる攻撃、エ は盗み取った認証データを再送する攻撃です。
Q8. サイバーキルチェーンの段階のうち、標的の脆弱性を突いて不正なコードを実行させる段階はどれか。
- 偵察
- 武器化
- 配送
- 攻撃(エクスプロイト)
正解: エ 脆弱性の悪用が起きるのは第 4 段階の攻撃(エクスプロイト)です。ア の偵察は公開情報などから標的を調べる段階、イ の武器化は不正なファイルを用意する段階、ウ の配送はメールや Web でそれを送り込む段階で、いずれも実行前の準備に当たります。段階の名前と、そこに効く対策(配送にはメールフィルタ、以降には EDR など)を対応させて覚えます。
Q9. 20 人が互いに暗号通信を行うとき、共通鍵暗号方式で必要な鍵の総数と、公開鍵暗号方式で必要な鍵の総数の組合せはどれか。
- 190 と 40
- 190 と 20
- 380 と 40
- 400 と 40
正解: ア 共通鍵は相手の組合せごとに 1 個必要なので 20 × 19 ÷ 2 = 190 個、公開鍵は 1 人につき公開鍵と秘密鍵を 1 個ずつなので 20 × 2 = 40 個です。イ は公開鍵を人数と同じ 20 個と数えた誤り、ウ は共通鍵を n(n − 1) のまま 2 で割らなかった誤り、エ は n2 と数えた誤りです。
Q10. A が B へ送る電子メールにデジタル署名を付けた。B が署名を検証するために使う鍵はどれか。
- A の公開鍵
- A の秘密鍵
- B の公開鍵
- B の秘密鍵
正解: ア 署名は送信者 A の秘密鍵で作られるので、対になる A の公開鍵でしか戻せません。戻した値が本文のハッシュ値と一致すれば、A が作ったことと改ざんがないことが分かります。イ の A の秘密鍵は A 本人しか持たないため検証には使えません。ウ・エ の B の鍵は、B に宛てて機密性を確保する(暗号化する)ときに使う鍵で、署名の検証には無関係です。
Q11. メッセージ認証コード(MAC)では実現できず、デジタル署名で実現できることはどれか。
- 通信内容の機密性の確保
- 通信途中での改ざんの検知
- 送信者が送信した事実の第三者に対する証明
- 大量データの高速な暗号化
正解: ウ MAC は送信者と受信者が同じ共通鍵を持つため、受信者も同じ値を作れます。したがって送信者が送ったことを第三者に示す否認防止には使えません。デジタル署名は送信者の秘密鍵でしか作れないので、これが可能です。イ の改ざん検知は MAC でも実現できます。ア の機密性は署名では得られず、エ は共通鍵暗号の役割です。
Q12. CRL(証明書失効リスト)に登録されるものはどれか。
- 有効期限が満了した証明書のシリアル番号
- 有効期限内に失効させられた証明書のシリアル番号
- 失効した証明書に対応する秘密鍵
- 認証局が発行したすべての証明書の公開鍵
正解: イ 秘密鍵の漏えいなどによって有効期限前に無効とされた証明書を、シリアル番号で列挙するのが CRL です。ア の期限満了は証明書自身の有効期間を見れば判定できるので載せません。ウ は秘密鍵を公開することになり成り立ちません。エ は失効リストではなくリポジトリの役割です。
Q13. OCSP を利用する目的はどれか。
- 認証局の秘密鍵を安全に保管する
- 証明書に記載された組織の実在性を審査する
- 電子文書がある時刻に存在したことを証明する
- 証明書が失効していないかをオンラインで問い合わせる
正解: エ OCSP は検証したい証明書について 1 件ずつレスポンダへ問い合わせ、その時点の失効状態を得るプロトコルです。ア は鍵管理や耐タンパ性のある装置の役割、イ は証明書発行時の審査(DV・OV・EV の違い)の話、ウ はタイムスタンプ(時刻認証)の役割です。
Q14. 生体認証装置で判定のしきい値を厳しく設定したときに起こることはどれか。
- 他人受入率と本人拒否率がともに下がる
- 他人受入率が下がり、本人拒否率が上がる
- 他人受入率が上がり、本人拒否率が下がる
- 他人受入率と本人拒否率がともに上がる
正解: イ しきい値を厳しくすると他人を受け入れにくくなる一方で、本人であっても条件を満たさず拒否される場合が増えます。両者は一方を下げると他方が上がる関係にあり、ア・エ のように同じ方向へ動くことはありません。ウ は緩めたときの動きで、向きが逆です。両者が等しくなる点を等誤り率(EER)と呼びます。
まとめ
この章の論点は、対比と主体で整理すると科目 A の選択肢がそのまま裁けます。
| テーマ | 覚える形 | 作られる誤答 |
|---|---|---|
| JIS Q 27000 の 7 特性 | 責任追跡性 = 誰がやったか追える/否認防止 = やっていないと言わせない | 隣接する特性の定義文を入れ替える |
| パスワード攻撃と対策 | ロックアウトは同じ ID への連続失敗に効く。ID を変える攻撃には効かない | 「試行回数制限で全部防げる」 |
| ソルト・ペッパー・ストレッチング | ソルト = 表の使い回しを封じる/ストレッチング = 1 件の試行を遅くする | ソルトでパスワードリスト攻撃も防げるとする |
| Web 攻撃の被害の場所 | XSS = 閲覧者のブラウザ/CSRF = サーバ側で本人名義の処理 | 2 つの名前と被害を入れ替える |
| DNS キャッシュポイズニング | 直接起きるのは偽サーバへの誘導 | 情報の詐取(二次被害)を直接の現象とする |
| 鍵の数 | 共通鍵 n(n − 1) ÷ 2 個/公開鍵 2n 個 | 公開鍵を n 個、共通鍵を n(n − 1) 個と数える |
| 公開鍵の使い分け | 暗号化 = 受信者の公開鍵/署名 = 送信者の秘密鍵で作り公開鍵で検証 | 鍵の持ち主(主体)を入れ替える |
| ハイブリッド暗号 | 本文は共通鍵暗号、共通鍵だけを公開鍵暗号で運ぶ | 本文を公開鍵暗号で暗号化するとする |
| ハッシュ・MAC・署名 | 署名だけが否認防止まで満たす。署名に機密性は無い | MAC を署名と同一視する/ハッシュを暗号化と呼ぶ |
| 証明書チェーン | ルート証明書は自己署名で、事前組込みが信頼の基点 | サーバ証明書 1 枚だけで信頼が決まるとする |
| CRL と OCSP | どちらも有効期限内の失効を確認。CRL = 一覧を取得/OCSP = 都度問合せ | 有効期限切れの一覧とする |
| 認証の要素と誤り率 | 多要素 = 異なる種類を 2 つ以上/しきい値を厳しく = FAR 下がり FRR 上がる | パスワード 2 回を多要素とする/両方の誤り率が下がるとする |
ここまでが攻撃側の手口と、暗号・認証という守り方の部品です。第 12 章では、これらの部品を組織としてどう運用するか(ISMS とリスクマネジメント)と、ネットワーク上のどこに何を置くか(FW・IDS/IPS・WAF・VPN・ゼロトラスト)を扱い、セキュリティ分野の残り半分を埋めます。