この章で学ぶこと
- 専有部分・共用部分・敷地利用権の区別と「分離処分禁止」のルール
- 管理者・規約・集会の運営ルールと頻出数字(1週間前・1/5・3/4)
- 2026年4月施行の区分所有法大改正 — 集会決議の「出席者多数決」化と建替え要件の緩和
- 相続人の順位・法定相続分の計算(代襲相続・相続放棄の処理)
- 承認・放棄の3ヶ月ルール、遺言の方式、配偶者居住権、遺留分
例年 2 問出題(区分所有法 1 問+相続 1 問)。2026年度は区分所有法の歴史的大改正が最大の狙い目です。新旧の決議要件を正確に押さえ、2 問確保が目標です。
区分所有法の全体像 — 専有部分・共用部分・敷地利用権
分譲マンションでは、1 棟の建物を大勢が「区分」して所有します。301号室はAのもの、302号室はBのもの — しかし廊下やエレベーターは誰か 1 人のものにはできません。そこで建物の区分所有等に関する法律(区分所有法)が、①各自が単独所有する専有部分、②全員で共有する共用部分、③建物を支える敷地の権利=敷地利用権という 3 層構造と、多数決による団体的な管理のルールを定めています。
専有部分と認められるには、壁などで仕切られた構造上の独立性と、独立して住居・店舗等に使える利用上の独立性の両方が必要です。専有部分を目的とする所有権を区分所有権、その持ち主を区分所有者といいます。
| 種類 | 具体例 | ポイント |
|---|---|---|
| 法定共用部分 | 廊下・階段室・エレベーター室・躯体・配管の本管 | 法律上当然に共用部分。登記できない |
| 規約共用部分 | 集会室・管理人室(附属の建物も可) | 規約で共用部分と定める。登記が第三者への対抗要件 |
| 敷地利用権 | 敷地の所有権(共有持分)・借地権 | 専有部分を所有するための敷地の権利 |
共用部分は区分所有者全員の共有で、持分は規約に別段の定めがない限り専有部分の床面積の割合(壁の内側で測る内法計算)によります。そして共用部分の持分は専有部分と分離して処分できません。部屋を売れば廊下の持分も自動的についていき、廊下の持分だけを売ることはできないのです。同様に、敷地利用権も専有部分と分離して処分できませんが、こちらは規約に別段の定めがあれば分離処分が可能です。例外を認める根拠が「法律」か「規約」かの違いが狙われます。
なお、共用部分の各共有者は、持分に応じて共用部分の負担(管理費等)を負い、利益(賃貸収益等)を収取します。共用部分に対する行為は、影響の大きさに応じて 3 段階に分かれます。①保存行為(階段の電球交換・雨漏りの応急修理など現状を維持する行為)は各区分所有者が単独でできます。②管理行為(共用部分の賃貸・損害保険契約など)は集会の普通決議です。③変更行為は、形状又は効用の著しい変更を伴わないもの(軽微変更。外壁の塗替えや計画修繕など)は普通決議で足り、著しい変更を伴う重大変更(エレベーターの新設・集会室の増築など)は特別決議によります。「形状又は効用の著しい変更を伴うかどうか」が軽微と重大の分かれ目で、この一文がそのまま条文の言葉として出題されます。それぞれの具体的な決議要件は 2026年改正を踏まえて次節の表で確定させます。
管理者・規約・集会 — マンション自治の運営ルール
区分所有者は全員で建物等の管理を行う団体(管理組合)を当然に構成します。その運営の要が管理者・規約・集会の 3 点セットです。
管理者と管理組合法人
管理者は、規約に別段の定めがない限り集会の普通決議で選任・解任します。区分所有者以外の者(管理会社などの法人)を管理者にしてもかまいません。管理者は共用部分の保存行為をし、集会の決議を実行し、職務に関して区分所有者を代理します。また少なくとも毎年 1 回集会を招集し、事務を報告する義務があります。管理者に不正な行為があるときは、各区分所有者は解任を裁判所に請求できます。管理組合は、各 3/4 以上の集会決議(2026年改正後の母数は次節)で法人となる旨・名称・事務所を定め、主たる事務所の所在地で登記することによって管理組合法人になれます。区分所有者の人数による制限はなく(「30 人以上でなければ法人になれない」という肢は誤りです)、法人には理事と監事を必ず置きます。理事が数人いるときは、規約や集会決議で代表理事を定めない限り各自が単独で法人を代表します。法人は、①建物の全部の滅失、②建物に専有部分がなくなったこと、③3/4 以上の集会決議(同じく母数は次節)によって解散します。
規約
規約の設定・変更・廃止は3/4 以上の特別決議によります(2026年改正後の母数は次節)。このとき一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすときは、その者の承諾が必要です。例外として、最初に建物の専有部分の全部を所有する者(分譲業者)は、公正証書により、①規約共用部分、②規約敷地、③専有部分と敷地利用権の分離処分を可能とする定め、④敷地利用権の割合 — の 4 事項に限って単独で原始規約を設定できます。規約は管理者が保管し(管理者がないときは規約または集会決議で定める区分所有者等)、建物内の見やすい場所に保管場所を掲示し、利害関係人からの閲覧請求を正当な理由なく拒めません。規約と集会決議の効力は、区分所有者の特定承継人(買主)や占有者(賃借人)にも及びます。
集会
| 項目 | 原則 | 規約による変更 |
|---|---|---|
| 招集 | 管理者が少なくとも毎年 1 回 | — |
| 招集通知 | 会日の少なくとも 1 週間前に会議の目的事項を示して発する | 伸縮どちらも可 |
| 少数者の招集請求 | 区分所有者の1/5 以上で議決権の1/5 以上を有する者 | 定数の引下げのみ可 |
| 決議事項 | あらかじめ通知した事項のみ決議できる | 普通決議事項は別段の定め可 |
| 占有者(賃借人等) | 利害関係があれば出席して意見を述べられる(議決権はない) | — |
| 議事録 | 議長が作成し、議長+出席区分所有者 2 人が署名(電磁的記録可) | — |
| 書面・電磁的決議 | 区分所有者全員の承諾で可。全員の書面による合意=決議とみなす | — |
議決権は、規約に別段の定めがない限り共用部分の持分割合(=床面積割合)です。議決権は書面(議決権行使書面)や代理人(委任状)によっても行使できます。この「書面・代理人による行使」が、次に見る 2026年改正の「出席」の概念に組み込まれた点が重要です。
【2026年大改正】集会決議は「出席者多数決」へ
2026年法改正 区分所有法が 2002年以来の抜本改正を受け、2026年(令和8年)4月1日に施行されました(既存の全マンションに適用)。柱は 3 つ — ①集会決議の出席者多数決化と所在等不明区分所有者の母数除外、②建替え決議の要件緩和と一括売却等の新決議類型の創設、③財産管理制度・国内管理人など管理の適正化です。過去問の解答が変わる論点が多数あり、本年度試験の最重要改正です。なお、マンション管理業者が管理組合の管理者等を兼ねる場合にその旨が 35条書面の説明事項に追加された改正(第6章参照)もこの流れの一環です。
改正の趣旨から押さえましょう。旧法の集会決議は「区分所有者及び議決権の各過半数(または 3/4 以上)」— つまり全区分所有者を母数とする絶対多数決でした。所有者の高齢化や無関心層の増加で集会に来ない人が増えると、欠席者は事実上の反対票になり、決議が成立しない「管理不全マンション」が社会問題化しました。そこで新法は、原則として出席者を母数とする多数決に転換したのです。
新法のポイントは 3 つです。第一に、「出席」には本人出席のほか代理人(委任状)による出席や議決権行使書面による行使も含みます。第二に、所在の知れない区分所有者は裁判所の決定を得て決議の母数(定数・議決権)から除外できる制度が新設されました。この母数除外は、出席者多数決が適用されない建替え等の再生決議にも使えます。第三に、建替え決議は原則どおり全員母数の各 4/5 以上ですが、①耐震性の不足、②火災に対する安全性の不足、③外壁等の剥落のおそれ、④給排水管等の腐食による衛生上の有害のおそれ、⑤バリアフリー基準への不適合 — の客観的事由(緩和 5 事由)のいずれかがあれば各 3/4 以上に緩和されます。
| 決議事項 | 旧法(〜2026年3月) | 新法(2026年4月〜) |
|---|---|---|
| 保存行為(小修繕など) | 各区分所有者が単独で可 | 変更なし(単独で可) |
| 管理行為・共用部分の軽微変更 | 区分所有者及び議決権の各過半数(全員母数) | 出席区分所有者及びその議決権の各過半数 |
| 共用部分の重大変更 | 各3/4 以上(全員母数。頭数のみ規約で過半数まで減可) | 出席者の各3/4 以上(バリアフリー化工事・瑕疵除去等は各2/3 以上。頭数の引下げは維持) |
| 規約の設定・変更・廃止/管理組合法人の成立/使用禁止・競売・引渡し請求 | 各3/4 以上(全員母数) | 出席者の各3/4 以上 |
| 大規模滅失(建物価格の 1/2 超)の復旧 | 各3/4 以上(全員母数) | 出席者の各2/3 以上(母数だけでなく割合も引下げ) |
| 建替え決議 | 各4/5 以上(全員母数) | 原則各4/5 以上(全員母数のまま)。緩和 5 事由があれば各3/4 以上 |
| 建物・敷地の一括売却/取壊し/取壊し後の敷地売却/建物更新(一棟リノベーション) | 制度なし(全員の同意が必要) | 新設:各4/5 以上(緩和 5 事由で各3/4 以上) |
新設された再生の決議は4 類型です — ①建物・敷地の一括売却決議、②建物取壊し決議、③取壊し後の敷地売却決議、④建物更新決議(既存の躯体を残したまま建物全体を作り直す一棟リノベーション)。いずれも旧法では全員の同意が必要で事実上不可能でしたが、多数決でできるようになりました。敷地の処分を伴う決議では、区分所有者の頭数と議決権に加えて敷地利用権の持分の価格も母数に入る点に注意してください。なお、建替えを各 4/5 から各 3/4 に下げる緩和 5 事由と、共用部分の重大変更を各 3/4 から各 2/3 に下げる特定事由(①共用部分の設置・保存の瑕疵によって他人の権利等が侵害されるおそれがある場合の、その瑕疵の除去に必要な変更、②高齢者・障害者等の身体の負担を軽減するバリアフリー化に必要な変更)は別の制度です。「耐震性の不足」は前者=建替えの 5 事由に出てくる言葉であって、後者の 2/3 の事由として条文に並んでいるわけではありません。事由と数字の組合せを入れ替えた肢に注意しましょう。
暗記テク 新法の数字は 4 行で整理 —「普通・軽微=出席過半数」「重大変更・特別決議=出席 3/4」「出席 2/3 に下がるのは 2 つだけ=重大変更のうち瑕疵除去・バリアフリー化の特定事由があるものと、大規模滅失の復旧」「建替え等の再生=全員の 4/5(危険なマンションは 3/4)」。本試験では「出席」の一語があるかどうかで正誤が決まります。
管理の適正化のための新制度も要チェックです。利害関係人の申立てにより裁判所が管理人を選任する財産管理制度が 3 類型(所有者不明専有部分管理・管理不全専有部分管理・管理不全共用部分管理)新設されました。管理人は保存・利用改良行為はできますが、処分には裁判所の許可が必要です。また、海外に居住する区分所有者が国内の連絡先として国内管理人を選任できる制度もできました。国内管理人は通知の受領や議決権の行使などを行えます。
義務違反者への措置・復旧・建替え
区分所有者は、建物の管理・使用に関して共同の利益に反する行為をしてはなりません(騒音・用途違反・共用部分の不正使用など)。占有者(賃借人)も同じ義務を負います。違反者への措置は、軽い順に 4 段階です。
試験で狙われるのは要件の違いです。行為の停止等の請求は、訴訟によらない請求であれば集会の決議は不要ですが、訴えを提起するには集会の決議(普通決議)が必要です。使用禁止・競売・引渡しの請求は必ず訴えによらなければならず、集会決議だけで実現することはできません。また、決議の前に違反者に弁明の機会を与える必要があります。占有者への引渡し請求では、弁明の機会は占有者に与えれば足り、貸主である区分所有者に与える必要はありません。
復旧と建替え
建物価格の 1/2 以下が滅失した小規模滅失では、各区分所有者は単独で共用部分を復旧できます(復旧決議等があった後は不可。費用は持分に応じて他の区分所有者に償還請求できます)。1/2 を超える大規模滅失の復旧には集会の決議が必要です。この決議は 2026年改正で、旧法の「全区分所有者及び議決権の各 3/4 以上」から出席者の各 2/3 以上へと、母数だけでなく割合まで引き下げられました(区分所有法61条)。被災したマンションを早く立て直せるようにするための緩和で、他の特別決議(出席者の各 3/4 以上)とは数字が違う点が狙われます。なお、決議に賛成しなかった区分所有者は、賛成者に対し自分の権利を時価で買い取るよう請求できます。
建替え決議を目指す集会は、会日の2 ヶ月前までに招集通知を発し、1 ヶ月前までに説明会を開く必要があります。決議が成立したら、集会を招集した者は決議に賛成しなかった区分所有者に対し「建替えに参加するか」を書面で催告し、催告から 2 ヶ月以内に回答がなければ不参加とみなされます。参加者側は、その期間満了の日から 2 ヶ月以内に、不参加者へ区分所有権と敷地利用権を時価で売り渡すよう請求できます(売渡し請求)。多数決で建替えを進める代わりに、去る者には時価の補償を保障する仕組みです。
2026年改正では、建替えを実際に着工できるようにするため賃借人(借家人)との関係を終わらせる制度も新設されました。建替え決議が成立すると、建替えに参加する区分所有者や賃貸人である区分所有者は、その専有部分の賃借人に対して賃貸借の終了を請求でき、請求の日から 6 ヶ月の経過によって賃貸借が終了します(区分所有法64条の2)。もっとも賃借人は保護されており、区分所有者は賃貸借の終了によって通常生ずる損失の補償金を支払わなければならず、賃借人は補償金の提供を受けるまで明渡しを拒めます。借家契約は正当事由がなければ貸主から終わらせられないのが原則ですが(第15章)、建替え決議という多数決の効果として、補償金とセットで例外が認められた形です。
相続人と法定相続分 — 誰が・どれだけ相続するか
ここからは相続です。人が死亡すると、その財産上の権利義務(借金も含む)は相続人に包括的に承継されます。配偶者は常に相続人となり、それに加えて第 1 順位=子、第 2 順位=直系尊属(父母など)、第 3 順位=兄弟姉妹の順で、先順位の者がいれば後順位の者は相続人になりません。第 1 順位の「子」には、実子だけでなく養子も、婚姻外に生まれた嫡出でない子も含まれます。さらに胎児も、相続についてはすでに生まれたものとみなされるため相続人になります(民法886条。死産だった場合はさかのぼって相続人でなかったことになります)。
| 相続人の組合せ | 配偶者 | 血族相続人 |
|---|---|---|
| 配偶者+子 | 1/2 | 子 1/2(複数なら均分。嫡出でない子も同等) |
| 配偶者+直系尊属 | 2/3 | 直系尊属 1/3 |
| 配偶者+兄弟姉妹 | 3/4 | 兄弟姉妹 1/4(父母の一方のみ同じ半血兄弟姉妹は全血の 1/2) |
暗記テク 血族側の分母は順位の順に「2・3・4」(子 1/2 → 尊属 1/3 → 兄弟 1/4)、配偶者は残り全部。この 1 行で相続分の表は再現できます。
相続人になれるはずの者が相続開始以前に死亡していたり、欠格(被相続人を殺害して刑に処せられた・遺言書を偽造したなど、法律上当然に資格を失う)や廃除(虐待・重大な侮辱等を理由に被相続人が家庭裁判所に請求して資格を奪う)に当たる場合は、その者の子が代わりに相続します(代襲相続)。代襲原因はこの死亡・欠格・廃除の 3 つだけで、相続放棄は代襲原因になりません。放棄した者は初めから相続人でなかったものとみなされ、その子も一切相続できないのです。具体例で確認しましょう。
承認・放棄と遺産分割
相続人は、被相続人の借金まで無条件で引き継ぐ必要はありません。自己のために相続の開始があったことを知った時から 3 ヶ月以内(熟慮期間。家庭裁判所への請求で伸長可)に、①単純承認、②限定承認、③放棄のいずれかを選べます。
放棄は家庭裁判所への申述が必要で(相続人間の口約束では放棄になりません)、いったん受理されると熟慮期間内でも撤回できません。限定承認(プラス財産の範囲内でのみ債務を弁済する留保付きの承認)は共同相続人全員が共同して行う必要があります。1 人が放棄・1 人が限定承認という組合せはできますが(放棄者は初めから相続人でないため)、1 人だけの限定承認はできません。また、相続財産の全部または一部を処分したり、隠匿・費消したりすると単純承認したものとみなされます(法定単純承認)。
遺産分割は共同相続人の協議で行い、全員の参加が必要です(1 人でも除外した協議は無効)。協議が調わなければ家庭裁判所の調停・審判によります。分割の効力は相続開始の時に遡りますが、第三者の権利を害することはできません。分割をめぐる近年の改正・判例の要点は次のとおりです。
- 預貯金の払戻し制度 — 遺産分割前でも、各相続人は「相続開始時の預貯金額 × 1/3 × 自己の法定相続分」(同一金融機関ごとに 150万円が上限)を単独で払い戻せます。葬儀費用や当面の生活費のための制度です
- 分割前に遺産が処分された場合 — 共同相続人の 1 人が分割前に遺産を処分しても、他の共同相続人全員の同意(処分した本人の同意は不要)により、その財産を遺産分割の対象に含めることができます
- 10 年経過後の特則 — 相続開始から 10 年を経過した後の遺産分割は、原則として特別受益・寄与分を反映した具体的相続分ではなく法定相続分(指定相続分)によります。分割の先送り防止策です
- 遺産分割の禁止 — 被相続人は遺言で 5 年以内の期間を定めて分割を禁止でき、共同相続人も契約で 5 年以内の分割禁止を定められます(更新可。ただし相続開始から通算 10 年まで)
- 遺産からの賃料の帰属(判例) — 相続開始から遺産分割までの間に遺産である賃貸不動産から生じた賃料は、各共同相続人が法定相続分に応じて確定的に取得し、後にその不動産を誰が取得しても清算し直しません(分割の遡及効は及ばない)
なお、賃借権などの契約上の地位も相続の対象です(借家権は相続人に承継されます)。遺産分割で法定相続分を超える部分の権利取得を第三者に対抗するには登記が必要になる点は、第11章(民法899条の2)で学んだとおりです。
遺言と遺贈 — 2026年は公正証書遺言のデジタル化に注意
遺言は15 歳以上で意思能力があれば単独でできます(未成年者でも法定代理人の同意は不要)。方式は厳格で、方式違反の遺言は無効です。宅建試験では自筆証書遺言と公正証書遺言の対比を押さえれば足ります。
| 方式 | 作成方法 | 証人 | 検認 |
|---|---|---|---|
| 自筆証書遺言 | 全文・日付・氏名を自書し押印。財産目録はパソコン作成等でも可(毎葉に署名押印が必要) | 不要 | 必要 |
| 自筆証書遺言(法務局保管制度を利用) | 同上。本人が法務局に保管を申請 | 不要 | 不要 |
| 公正証書遺言 | 公証人が作成。2025年10月から電子データによる作成が原則となり、Web 会議によるリモート作成も一定の要件で可能 | 2 人以上 | 不要 |
2026年法改正 公証制度のデジタル化(2025年10月1日施行)により、公正証書遺言は電磁的記録による作成が原則となり、インターネットによる嘱託や、公証人が相当と認める場合等のWeb 会議システムを利用したリモート作成が可能になりました。ただし証人 2 人以上の立会いという実質要件は維持されています。「デジタル化で証人が不要になった」という肢は誤りです。
遺言はいつでも撤回できます。撤回は遺言の方式によりますが、前の遺言と同じ方式である必要はありません。また、①後の遺言が前の遺言と抵触する部分、②遺言者が遺言の内容と抵触する生前処分(目的物の売却など)をした部分、③遺言者が遺言書や目的物を故意に破棄した部分は、撤回したものとみなされます。
遺言で財産を無償で与えることを遺贈といいます。包括遺贈(「全財産の 1/3 を与える」など割合による遺贈)の受遺者は相続人と同一の権利義務を持ち、放棄するには相続放棄と同じく家庭裁判所への申述が必要です。特定遺贈(「甲土地を与える」)の受遺者は、遺言者の死亡後いつでも放棄できます。受遺者が遺言者より先に死亡したときは遺贈は効力を生じません(受遺者の子への代襲はありません)。
配偶者居住権と遺留分
配偶者居住権は、被相続人の建物に相続開始時に居住していた配偶者が、遺産分割・遺贈・死因贈与・家庭裁判所の審判によって取得する「無償で住み続ける権利」です。所有権より低い評価額で住まいを確保できるため、配偶者は預貯金など他の遺産を取得しやすくなります。
| 項目 | 配偶者居住権 | 配偶者短期居住権 |
|---|---|---|
| 取得の方法 | 遺産分割・遺贈・死因贈与・審判 | 要件を満たせば当然に成立(無償で居住していた場合) |
| 存続期間 | 原則終身(別段の定め可) | 遺産分割確定の日または相続開始から 6 ヶ月のいずれか遅い日まで |
| 権利の内容 | 無償で使用・収益 | 無償で使用のみ |
| 登記 | 可(対抗要件)。建物所有者は登記を備えさせる義務を負う | 不可(対抗力なし) |
| 譲渡 | 不可 | 不可 |
配偶者居住権の第三者対抗要件は登記です(借家権のような「建物の引渡し」による対抗力はありません)。建物の通常の必要費(固定資産税や通常の修繕費)は配偶者が負担し、所有者の承諾を得なければ第三者に使用収益させたり増改築したりできません。
遺留分
遺言で全財産を他人に遺贈されても、一定の相続人には最低限の取り分=遺留分が保障されます。遺留分権利者は配偶者・子(代襲者含む)・直系尊属で、兄弟姉妹に遺留分はありません。総体的遺留分は原則1/2、直系尊属のみが相続人のときだけ 1/3 で、これに各自の法定相続分を掛けたものが個別の遺留分です。侵害された者は、受遺者・受贈者に対し遺留分侵害額に相当する金銭の支払いを請求できます(遺留分侵害額請求権)。改正民法で金銭債権に一本化されたため、現物の返還や遺贈の無効主張はできません。この請求権は、相続の開始および侵害する贈与・遺贈があったことを知った時から 1 年、または相続開始から 10 年で消滅します。なお、相続開始前の遺留分放棄には家庭裁判所の許可が必要です(相続開始後は不要)。
最後に相続分の修正要素を一言で。相続人が遺贈や生計の資本としての贈与を受けていれば特別受益として相続分から差し引かれ、被相続人の財産の維持・増加に特別の寄与をした相続人には寄与分が加算されます。相続人以外の親族(子の配偶者など)が無償で療養看護等に努めた場合は、相続人に対し金銭(特別寄与料)を請求できます。また、相続や遺贈で不動産を取得したことを知った日から 3 年以内の相続登記申請が義務である点(10万円以下の過料)は第11章で学んだとおり、本年度の頻出予想論点です。
ひっかけポイント
ここがひっかけ①「出席」の一語で正誤が変わる 新法の普通決議・特別決議は「出席した区分所有者及びその議決権」が母数です。「区分所有者及び議決権の各過半数で決する」という旧法文言のままの肢は誤りになります。逆に建替え決議等の再生決議だけは全員母数のままなので、「建替え決議も出席者の 4/5 でよい」は誤りです。例外の向きを逆に覚えないこと。
ここがひっかけ②分離処分の例外の根拠 共用部分の持分は規約をもってしても専有部分と分離処分できません(法律に別段の定めがある場合のみ例外)。一方、敷地利用権は規約に定めれば分離処分が可能です。「規約で例外を作れるのはどちらか」を入れ替える肢が定番です。
ここがひっかけ③相続放棄の 3 点セット 放棄は①家庭裁判所への申述が必要、②撤回不可、③代襲相続を生じない。特に③は「放棄した者の子が代襲相続した」という肢で毎年のように狙われます。代襲原因は死亡・欠格・廃除の 3 つだけです。
ここがひっかけ④遺留分は「兄弟姉妹なし・金銭のみ」 兄弟姉妹に遺留分を与える肢、遺留分侵害額請求で「目的物の返還を請求できる」とする肢はいずれも誤り。数字は「原則 1/2・直系尊属のみ 1/3・知った時から 1 年/相続開始から 10 年」で固定です。
一問一答で総仕上げ
Q1. 区分所有者は、規約に別段の定めがあれば、共用部分の持分を専有部分と分離して第三者に譲渡することができる。(○か×か)
答え: × 共用部分の持分は専有部分の処分に従い、規約によっても分離処分はできません(法律に別段の定めがある場合を除く)。規約で分離処分を可能にできるのは敷地利用権です。
Q2. 集会の招集通知は、会日の少なくとも 2 週間前に、会議の目的たる事項を示して発しなければならず、この期間を規約で短縮することはできない。(○か×か)
答え: × 招集通知は会日の少なくとも 1 週間前に発すれば足り、この期間は規約で伸縮(伸長も短縮も)可能です。
Q3. 2026年4月施行の改正区分所有法の下では、共用部分の管理に関する事項(普通決議事項)は、全区分所有者及びその議決権の各過半数で決する。(○か×か)
答え: × 改正法では、母数は集会に「出席」した区分所有者及びその議決権で、その各過半数で決します。全区分所有者を母数とする旧法の表現は誤りです。
Q4. 改正区分所有法の下では、建替え決議も出席した区分所有者及びその議決権の各 4/5 以上の多数で行うことができる。(○か×か)
答え: × 建替え決議等の再生決議は出席者多数決化の対象外で、原則どおり全区分所有者及び議決権の各 4/5 以上が必要です(緩和 5 事由があれば各 3/4 以上)。
Q5. 耐震性が不足するマンションについては、区分所有者及び議決権の各 3/4 以上の多数により建替え決議をすることができる。(○か×か)
答え: ○ 耐震性の不足・火災安全性の不足・外壁等の剥落のおそれ・給排水管等の腐食・バリアフリー基準不適合という客観的事由のいずれかがあれば、建替え決議は各 4/5 から各 3/4 以上に緩和されます。
Q6. 義務違反者である区分所有者に対する専有部分の使用禁止の請求は、集会の特別決議があれば、訴えを提起することなく行うことができる。(○か×か)
答え: × 使用禁止・競売・引渡しの各請求は、特別決議に加えて必ず訴えをもって行わなければなりません。決議だけで実現できるものではなく、決議の前には弁明の機会も必要です。
Q7. 専有部分を賃借している占有者は、会議の目的たる事項につき利害関係を有する場合には、集会に出席して議決権を行使することができる。(○か×か)
答え: × 占有者ができるのは出席して意見を述べることまでで、議決権はありません。議決権を行使できるのは区分所有者だけです。
Q8. Aの相続人となるはずであった子Bが相続の放棄をした場合、Bの子Cが Bを代襲してAの相続人となる。(○か×か)
答え: × 代襲原因は死亡・欠格・廃除の 3 つに限られ、相続放棄は代襲原因になりません。放棄したBは初めから相続人でなかったものとみなされ、Cも相続できません。
Q9. 共同相続人が数人いる場合、各相続人は、他の相続人の意向にかかわらず単独で限定承認をすることができる。(○か×か)
答え: × 限定承認は共同相続人の全員が共同してのみすることができます。単独でできるのは相続放棄です(放棄者を除いた残りの全員で限定承認することは可能)。
Q10. 公正証書遺言の作成はデジタル化され、Web 会議システムを利用して作成できる場合があるが、その場合には証人の立会いは不要である。(○か×か)
答え: × 公証制度のデジタル化(2025年10月施行)で電子データによる作成やリモート作成が可能になりましたが、証人 2 人以上の立会いという要件は維持されています。
Q11. 遺産分割により配偶者居住権を取得した配偶者は、登記をしなくても、居住建物を譲り受けた第三者に配偶者居住権を対抗することができる。(○か×か)
答え: × 配偶者居住権の対抗要件は登記です。借家権と異なり建物の引渡しによる対抗力は認められません。なお、居住建物の所有者は配偶者に登記を備えさせる義務を負います。
Q12. 被相続人の兄は、被相続人が全財産を第三者に遺贈した場合、受遺者に対し遺留分侵害額に相当する金銭の支払いを請求することができる。(○か×か)
答え: × 兄弟姉妹に遺留分はありません。遺留分権利者は配偶者・子(代襲者含む)・直系尊属だけです。なお、遺留分権利者による請求は金銭の支払請求に限られます。
まとめ
| テーマ | 数字・要件 | 補足 |
|---|---|---|
| 集会の招集通知 | 会日の 1 週間前 | 規約で伸縮可。少数者の招集請求は各 1/5 以上(引下げのみ可) |
| 普通決議・軽微変更 | 出席者の各過半数 | 定足数=区分所有者・議決権の各過半数の出席(2026年改正) |
| 特別決議・重大変更 | 出席者の各 3/4 以上 | 規約変更・法人化・使用禁止等。重大変更に特定事由があるときだけ各 2/3 |
| 大規模滅失の復旧 | 出席者の各 2/3 以上 | 建物価格の 1/2 超の滅失。旧法は全員母数の各 3/4 で、割合ごと引き下げられた |
| 建替え等の再生決議 | 全員母数の各 4/5 以上 | 緩和 5 事由で各 3/4。所在等不明者は裁判所決定で母数除外可。賃借人へは終了請求から 6 ヶ月で賃貸借終了(補償金要) |
| 熟慮期間 | 知った時から 3 ヶ月 | 放棄は家裁申述・撤回不可・代襲なし。限定承認は全員で |
| 法定相続分 | 子 1/2・尊属 1/3・兄弟 1/4 | 配偶者は残り。兄弟姉妹の代襲は甥姪まで |
| 遺言 | 15 歳以上・証人 2 人以上(公正証書) | 公正証書・法務局保管は検認不要。デジタル化でも証人は必要 |
| 遺留分 | 原則 1/2(直系尊属のみ 1/3) | 兄弟姉妹なし。金銭請求のみ。1 年/10 年で消滅 |
| 配偶者短期居住権 | 相続開始から 6 ヶ月等 | 使用のみ・登記不可。配偶者居住権は終身・登記が対抗要件 |
権利関係はこの章で完結です。2026年度は「出席者多数決」と「建替え 4/5(緩和 3/4)」を新法の言葉で言えるかが合否を分けます。次章からは第 III 部・法令上の制限に入り、まずは街づくりのルールである都市計画法を学びます。