宅建士合格教科書|2026年度(令和8年度)
第 10 章|例年 2 問前後出題

代理と時効

三面関係の代理と、時の経過が権利を動かす時効。図で流れを掴む

この章で学ぶこと

例年 2 問前後出題(代理 1 問+時効 1 問のイメージ)。どちらも出題の型が固まっている分野なので、2 問とも確保が目標です。

代理の仕組み — 三面関係と 3 つの要件

多忙な本人に代わって専門家が契約交渉をしたり、判断能力が不十分な人に代わって保護者が財産を管理したりできるように、民法は他人がした契約の効果を本人に帰属させる制度——代理を用意しました。本人の意思で代理権を与えるものを任意代理、親権者・成年後見人のように法律の規定で代理権が生じるものを法定代理と呼びます。宅建業者が売買の「代理」を引き受ける場面そのものであり、実務にも直結する分野です。

代理では登場人物が 3 人になるため、本章の図は本人 A・代理人 B・相手方 C の配置で統一します。

A(本人) B(代理人) C(相手方) ①代理権授与 ②顕名+代理行為(契約) ③契約の効果はAに帰属 契約を交渉して結ぶのはBだが、権利・義務を取得するのはA
図 10-1 代理の三面関係。「契約する人(B)」と「効果を受ける人(A)」が分離するのが代理の本質で、本章の全論点はこの三角形のどこかが壊れた場面を扱います。

効果が本人に帰属するための要件は 3 つです。①B に代理権があること、②B が「A の代理人 B です」と本人のためにすることを示すこと(顕名)、③B・C 間で有効な代理行為(契約)がされることです(民法99条)。

顕名がない場合、C からは B 自身が契約したように見えるため、その意思表示はB が自分のためにしたものとみなされ、B・C 間の契約になります(民法100条)。ただし、C が「A のための行為だ」と知り、または知ることができたときは、C を保護する必要がないので効果は A に帰属します。

代理行為の瑕疵も頻出です。実際に意思表示をするのは代理人なので、詐欺・強迫・錯誤・善意悪意など意思表示の効力に影響する事情の有無は、原則として代理人 B について判定します(民法101条)。たとえば C が B を騙して契約させた場合、騙されたのが B である以上、詐欺取消しが可能です——ただし効果は A に帰属しているため、取消権を持つのは本人 A です。逆に、A が特定の法律行為を B に委託した場合、A 自身が知っていた事情(および過失によって知らなかった事情)について「B は知らなかった」と主張することはできません(自分は知っていた、あるいは不注意で見落としたのに、代理人の無知を盾にするのは虫がよすぎるからです)。

代理人は制限行為能力者でも構いません。契約の効果も不利益もすべて本人に帰属し、代理人自身は損をしないからです。したがって A は、B が未成年者であることを理由に代理行為を取り消すことはできません(民法102条)。あえて未成年者を代理人に選んだ A の自己責任です。例外として、制限行為能力者が「他の制限行為能力者の法定代理人」としてした行為は取り消せます。法定代理では本人が保護者を選べないため、本人保護を優先させるのです。

代理権の制限と消滅 — 濫用・自己契約・復代理

代理権があっても、本人の利益を裏切る使い方は許されません。まず代理権の濫用——B が自己または第三者の利益を図る目的で、代理権の範囲内の行為をした場合です。形式的には正当な代理行為なので原則有効ですが、相手方 C がその目的を知り、または知ることができたときは、C を守る必要がないため無権代理行為とみなされ、効果は A に帰属しません(民法107条)。

次に自己契約と双方代理です。B が A の代理人として自分自身と契約すること(自己契約)、B が売主 A と買主 C の双方の代理人になること(双方代理)は、どちらか一方の利益が必ず犠牲になるおそれが構造的にあるため、原則として無権代理とみなされます(民法108条1項)。例外は 2 つ——①本人があらかじめ許諾した行為と、②債務の履行(すでに確定した債務を履行するだけで新たな利害対立が生じないもの。司法書士が売主・買主双方を代理して行う所有権移転登記の申請が典型)です。さらに、この 2 つの形をとらなくても代理人と本人の利益が相反する行為は同様に無権代理とみなされます(民法108条2項)。

【自己契約】 A(本人) B(代理人=買主) Aを代理して自分に売る 【双方代理】 A(売主) C(買主) B(双方の代理人) 代理 代理 原則どちらも無権代理とみなす(例外=本人の許諾・債務の履行)
図 10-2 自己契約は「売主側の代理人が買主本人」、双方代理は「1 人が両陣営の代理人」。いずれも本人の利益が害されるおそれが定型的にあるため、原則アウトです。

復代理は、代理人 B がさらに復代理人 D を選任して本人の代理をさせる制度です。D は「B の代理人」ではなく本人 A の代理人であり、D を選任してもB 自身の代理権は消滅しません。選任できる場面は、本人の信頼で選ばれた任意代理人と、自分の意思でなったわけではない法定代理人とで大きく異なります。

比較項目任意代理人法定代理人
復代理人を選任できる場合本人の許諾を得たとき、またはやむを得ない事由があるとき(民法104条)いつでも自己の責任で選任できる(民法105条)
本人に対する責任債務不履行の一般原則による原則全責任。やむを得ない事由で選任したときは選任・監督の責任のみ
復代理人の地位本人の代理人(権限は代理人の権限の範囲内。選任後も代理人の代理権は存続)

最後に代理権の消滅事由です。誰に何が起きると代理権が消えるのかを、任意代理・法定代理の対比表で固めます。

事由任意代理法定代理
本人の死亡消滅消滅
本人の破産手続開始消滅(委任契約が終了するため)消滅しない
本人の後見開始消滅しない消滅しない
代理人の死亡消滅消滅
代理人の破産手続開始消滅消滅
代理人の後見開始消滅消滅

暗記テク 「本人は死・破、代理人は死・破・後」で消滅(民法111条・653条)。そのうえで例外セルは 1 つだけ——法定代理は本人が破産しても消滅しない(親が破産しても子の親権は続く、とイメージ)。「本人の後見開始」はどちらの代理でも消滅しない点もひっかけの定番です。

無権代理 — 本人の追認と相手方の 4 つの武器

代理権がないのに「A の代理人」と名乗って契約するのが無権代理です。代理権という土台がないので、契約の効果は原則として本人 A に帰属しません(民法113条)。ただし契約自体が当然に消えるわけではなく、「A が引き取るか、C が見切りをつけるか」という宙ぶらりんの状態になります。この状態を動かすカードが、本人側に 2 枚、相手方側に 4 枚あります。

Bが代理権なしにAの代理人としてCと契約 Cは相当の期間を定めて催告できる(114条・悪意のCでも可) Aが追認 Aが追認拒絶 期間内に確答なし 契約時に遡って有効 (第三者の権利は害せない) Aに効果は帰属しない Cは117条責任追及・表見代理も可 追認拒絶とみなす(114条) (中央と同じ結果に合流) Cは、Aが追認しない間なら取消し(115条・善意)で契約から離脱できる 追認・追認拒絶はCに対する意思表示で行う(Bへの追認はCが知るまで対抗不可)
図 10-3 無権代理の全体図。A は自分から追認・追認拒絶を選べますが、動かないときは C の催告が決断を迫り、期間内に確答がなければ追認拒絶とみなされて中央に合流します(民法114条)。追認拒絶で終わっても C の手が尽きるわけではなく、117条責任追及と表見代理の主張は残ります。

本人 A は追認するか追認拒絶するかを選べます。追認すると契約は契約の時に遡って有効になります(民法116条。ただし第三者の権利を害することはできません)。追認・追認拒絶は相手方 C に対して行うのが原則で、B に対してした追認は、C がその事実を知るまで C に対抗できません。

相手方 C の 4 つの武器は、要件の違いが得点差になります。

武器C に必要な要件内容・効果
催告(民法114条)不要(悪意でも可)相当の期間を定めて「追認するか」を A に催告。期間内に確答がなければ追認拒絶とみなす
取消し(民法115条)善意(過失があってもよい)A が追認しない間に限り、契約を取り消して離脱できる
無権代理人の責任追及(民法117条)善意無過失(B が自己に代理権がないことを知っていたときは、C に過失があっても可)B に対し履行または損害賠償を選択して請求。B が制限行為能力者のときは責任なし
表見代理の主張(民法109・110・112条)善意無過失(類型ごとの要件)本人 A に効果を帰属させる(有効な代理と同じ結果)

催告は誰でもできる代わりに効果が弱く(確答なしは拒絶扱い)、B 本人に食らいつく 117条の責任追及は善意無過失という重い要件が課されます。「知っていた C」ほど使える武器が減っていく——「悪いやつは保護しない」の設計です。

なお、A が追認を拒絶しても C の手が尽きるわけではありません。117条の責任は「本人の追認を得たとき」に使えなくなる仕組みなので、拒絶されたときこそ B に請求する場面ですし、表見代理が成立するなら追認拒絶にかかわらず効果は A に帰属します。追認拒絶で確定するのは「A が任意に引き受けることはない」という一点だけだと押さえてください。

無権代理の発展 — 相続と表見代理

無権代理の当事者が死亡して相続が起きると、「本人の地位」と「無権代理人の地位」が同一人物に集まります。結論はどちらがどちらを相続したかで正反対になります。

【Bが本人Aを単独相続】 本人A(死亡) 相続 無権代理人B 追認拒絶できない → 契約は当然に有効 【本人AがBを相続】 無権代理人B(死亡) 相続 本人A 追認拒絶できる ただし117条の責任は承継
図 10-4 「自分でやった無権代理を、本人の座に就いた途端に拒絶する」のは許されない(左)。何も悪くない本人が拒絶するのは許される(右)——信義則で結論が分かれます。

左のケース(無権代理人 B が本人 A を単独相続)では、B は自分がした無権代理行為の責任者と追認権者を兼ねることになり、追認拒絶は信義則上許されず、契約は当然に有効となります(判例)。右のケース(本人 A が無権代理人 B を相続)では、何ら落ち度のない A が拒絶しても信義則に反しないため追認を拒絶できますが、B が負っていた民法117条の責任(履行または損害賠償)は相続により承継する点に注意が必要です。なお、B が他の相続人と共同でA を相続した場合、追認権は相続人全員に不可分に帰属するため、共同相続人全員が追認しない限り、B の相続分についても当然に有効とはなりません(判例)。

最後の武器が表見代理です。無権代理なのに「代理権があるかのような外観」を本人がつくり出した場合、その外観を善意無過失で信頼した相手方 C を保護し、本人に効果を帰属させます。3 類型と、その組み合わせ(重畳適用)まで押さえます。

類型典型例ポイント
代理権授与の表示(民法109条)実際は授与していないのに「B に代理権を与えた」と A が C に表示表示した範囲内の行為について成立
権限外の行為(民法110条)抵当権設定の代理権しかない B が売買契約を締結基本代理権の存在+C に権限があると信ずべき正当な理由
代理権消滅後(民法112条)解任されて代理権が消滅した元代理人 B が契約かつて代理権が存在したことが前提
重畳適用(109条2項・112条2項)表示された代理権の範囲外の行為/消滅した代理権の範囲外の行為2 類型の合わせ技でも成立し得る

表見代理が成立し得る場合でも、C は表見代理を主張せずに、直ちに無権代理人 B の責任(民法117条)を追及することを選択できます(判例)。B の側から「表見代理が成立するのだから本人に請求しろ(自分は免責される)」と主張することはできません。

取得時効 — 占有の継続が権利を生む

ここからは時効です。時効とは、一定の事実状態が長く続いたとき、真実の権利関係と一致するかを問わず、その事実状態どおりに権利を確定させる制度です。長年続いた状態の上に築かれた取引の安全を守ること、そして「権利の上に眠る者は保護しない」ことが趣旨です。権利を取得する方向に働くのが取得時効、権利が消える方向に働くのが消滅時効です。

所有権の取得時効の要件は、所有の意思をもって、平穏に、かつ公然と他人の物を占有し続けることです(民法162条)。期間は占有開始時に善意無過失なら 10 年、悪意または有過失なら 20 年です。

【占有開始時に善意無過失】→ 10年で取得 占有開始 ここで所有権取得 10年 善意無過失は占有開始の時点だけで判定(途中で悪意になっても10年のまま) 【悪意または有過失で占有開始】→ 20年で取得 占有開始 20年 賃借人の占有は「所有の意思」がなく、何年続けても取得時効は成立しない
図 10-5 上下の数直線は同じ縮尺で、下の 20 年はちょうど倍の長さです。10 年コースか 20 年コースかは出発点(占有開始時)の主観だけで決まり、途中経過は問いません。この「判定タイミング」が最大の出題ポイントです。

要件を分解します。所有の意思(自分の物として占有する意思)の有無は、内心ではなく占有を始めた原因(権原)の性質から客観的に判断されます。買主として引渡しを受けた者には所有の意思がありますが、賃借人は「借り物」として占有を始めた以上、内心でどう思おうと所有の意思が認められず、何年占有しても時効取得できません。また、占有は自分で直接する必要はなく、他人に賃貸したままでも占有(間接占有)は継続します。なお、真の所有者であっても登記を失った場合などに備えて「自己の物」についても取得時効を主張できるとするのが判例です。

占有の承継も頻出です。売買や相続で占有を引き継いだ者は、自分の占有だけを主張するか、前主の占有期間を合算して主張するかを選べます(民法187条)。ただし合算する場合は前主の瑕疵(悪意など)も引き継ぎます。逆に、前主が占有開始時に善意無過失であれば、途中から引き継いだ承継人が悪意でも、前主の開始時から通算 10 年で時効取得できます(判例)——判定はあくまで「最初の占有開始時」だからです。

対になる知識として、所有権そのものは消滅時効にかかりません。100 年放置した土地でも所有権は消えず、失うとすれば「他人が取得時効を完成させた反射」としてです。

消滅時効 — 権利は行使しないと消える

債権の消滅時効は、①債権者が権利を行使できることを知った時(主観的起算点)から 5 年、②権利を行使できる時(客観的起算点)から 10 年——のどちらか早い方の経過で完成します(民法166条)。

権利を行使できる時 (客観的起算点) 知った時 (主観的起算点) 客観的起算点から10年 主観的起算点から5年 どちらか一方でも満了すれば時効完成
図 10-6 5 年と 10 年の二本立て。通常の契約債権では債権者は履行期を知っているため、実際には「知った時から 5 年」が先に満了するのが普通です。

特則が 3 つあります。①人の生命・身体の侵害による損害賠償請求権は、被害者保護のため客観的起算点からの期間が20 年に伸びます(民法167条。主観 5 年は同じ)。②確定判決(または裁判上の和解等)で確定した権利は、10 年より短い時効期間の定めがあるものであっても、確定の時から 10 年になります(民法169条)。裁判で決着させた以上、短い期間で消えては困るからです。③債権・所有権以外の財産権(地上権・永小作権など)は20 年です(所有権は前述のとおり消滅時効にかかりません)。

客観的起算点(権利を行使できる時)は、債権の種類ごとに次のとおりです。履行遅滞になる時期(第13章)とは別物なので、混ぜないよう注意してください。

債権の種類消滅時効の客観的起算点
確定期限のある債権期限が到来した時
不確定期限のある債権期限が到来した時(債権者が到来を知らなくても進行)
期限の定めのない債権債権が成立した時(いつでも請求できるため)

時効の完成猶予・更新と援用

進行中の時効を止める手段は、効果の強さで 2 段階に分かれます。完成猶予は「所定の期間が過ぎても時効は完成しない」という一時停止(進んだ期間はリセットされません)、更新は「それまでの期間がゼロに戻り、新たに進み直す」というリセットです。

【完成猶予】完成が先送りされる(進んだ期間はリセットされない) 6ヶ月は完成しない 催告した時点 猶予中に裁判上の請求等をしなければ完成へ 【更新】進んだ期間がゼロに戻り、新たに進み直す 承認・確定判決 ゼロから新たに進行(リセット) 裁判上の請求は「手続中は完成猶予 → 判決確定で更新」の二段構え
図 10-7 完成猶予=一時停止、更新=リセット。「催告で時効が更新される」と書かれた肢はバツです(催告は 6 ヶ月の完成猶予止まり)。
事由完成猶予更新
裁判上の請求・支払督促・和解・調停・破産手続参加等手続の終了まで(権利が確定せず終了した場合は終了から 6 ヶ月)確定判決等で権利が確定した時に更新
強制執行・担保権の実行等手続の終了まで(取下げ・取消しの場合は終了から 6 ヶ月)手続終了時に更新(取下げ・取消しの場合を除く)
仮差押え・仮処分終了から 6 ヶ月更新なし
催告(裁判外の請求)6 ヶ月。猶予中の再度の催告は効力なし更新なし
協議を行う旨の合意(書面または電磁的記録)合意から 1 年(1 年未満の協議期間を定めたときはその期間、協議続行拒絶の書面通知から 6 ヶ月の、いずれか早い時まで)。再合意で延長できるが通算 5 年まで更新なし
承認(一部弁済・支払猶予の懇請など)—更新(債務者が権利の存在を認めた以上、振出しに戻る)

細かい注意を 2 つ。催告による猶予中に協議の合意をしても完成猶予の効力はなく、その逆も同じです(催告と協議の合意で「はしご」はできません)。また、債務者が支払いを 1 円でもすれば「承認」として更新される一方、債権者が内容証明郵便を何度送っても催告の 6 ヶ月止まり——時効を確実に更新できるのは裁判上の請求(→確定)か債務者の承認だと整理しておきましょう。

時効は期間が満了しただけでは効果が確定せず、当事者が援用(時効の利益を受けると主張)して初めて裁判所はこれに基づいて裁判できます(民法145条)。時効の利益を受けるかどうかを本人の良心に委ねる趣旨です。援用できる「当事者」には、消滅時効では保証人・連帯保証人・物上保証人・抵当不動産の第三取得者など「権利の消滅について正当な利益を有する者」が含まれます(判例上、後順位抵当権者は先順位の被担保債権の消滅時効を援用できません)。

時効の利益は、完成前にあらかじめ放棄することができません(民法146条)。契約時に債権者が「時効は主張しない」と約束させ放題になるのを防ぐためです。完成後の放棄は自由です。では、時効完成を知らずに債務を承認(一部弁済など)してしまった場合はどうか——放棄の意思はないものの、相手方は「もう時効は主張されない」と信頼するため、信義則上、以後その時効は援用できなくなります(判例)。最後に、時効の効力は起算日に遡ります(民法144条)。取得時効なら占有開始時から所有者だったことになり(占有中の使用利益を返す必要はありません)、消滅時効なら起算日以降の利息も発生しなかったことになります。

ひっかけポイント

ここがひっかけ① 瑕疵の判定は代理人、取消権は本人 相手方 C が代理人 B を騙した場合、「騙されたかどうか」は B について判定しますが、取消権は効果の帰属者である本人 A に帰属します(B は取消しについて代理権を与えられていない限り、単独で行使することはできません)。「本人 A は騙されていないので取り消せない」とする肢はバツです——判定基準は B、権利者は A と分けて覚えてください。

ここがひっかけ② 催告の「確答なし」の効果が章をまたいで逆 無権代理で相手方が本人に催告して確答がなければ追認拒絶とみなされます。一方、制限行為能力者の相手方が単独で追認できる者(能力回復後の本人や保護者)に催告して確答がなければ追認とみなされます(第9章)。「無権代理は拒絶・行為能力は追認」と対で覚えないと 2 問まとめて落とします。

ここがひっかけ③ 善意無過失は「占有開始時」だけで判定 占有の途中で他人の物だと気づいても 10 年のままです。さらに占有を承継した場合も判定は最初の占有者の占有開始時——前主が善意無過失で開始していれば、悪意の承継人も通算 10 年で時効取得できます。「承継人が悪意だから 20 年」とする肢はバツです。

ここがひっかけ④ 「催告で更新」「完成後に自認しても援用できる」はバツ 催告は 6 ヶ月の完成猶予止まりで、繰り返しても効果はありません。また、時効完成後に完成を知らずに債務を承認した債務者は、信義則上もはや援用できません。「知らなかったのだから援用できる」と書かれていたらバツです(そもそも援用ができるのは時効の完成後だという大前提は、取り違えないでください)。

一問一答で総仕上げ

Q1. BはAから土地売却の代理権を与えられていたが、Cとの売買契約の際にAのためにすることを示さなかった。Cが、BがAの代理人であることを知らず、知ることもできなかった場合、売買契約の効果はAに帰属する。(○か×か)

答え: × 顕名のない意思表示は代理人B自身のためにしたものとみなされ、B・C間の契約になります(民法100条)。相手方が本人のためにすることを知り、または知り得たときに限り、Aに効果が帰属します。

Q2. 未成年者を代理人とすることもでき、本人は、代理人が制限行為能力者であることを理由に代理行為を取り消すことができない。(○か×か)

答え: ○ 代理行為の効果はすべて本人に帰属し、代理人自身は不利益を受けないため、制限行為能力者も代理人になれます(民法102条)。あえて選んだ本人の自己責任であり、取消しはできません。

Q3. Bは、売却代金を自分の借金の返済に充てる目的で、Aから与えられた代理権の範囲内でA所有の土地をCに売却した。Cがその目的を知っていたときは、Bの行為は代理権を有しない者がした行為とみなされ、効果はAに帰属しない。(○か×か)

答え: ○ 代理権の濫用です。相手方が代理人の目的を知り、または知ることができたときは無権代理行為とみなされます(民法107条)。悪意のCを保護する必要はないからです。

Q4. 双方代理は原則として無権代理とみなされるが、売主・買主双方から依頼を受けて所有権移転登記の申請を行うような債務の履行については、有効な代理行為となる。(○か×か)

答え: ○ 自己契約・双方代理は原則無権代理とみなされますが、債務の履行と本人があらかじめ許諾した行為は例外です(民法108条1項)。確定済みの債務を履行するだけなら新たな利害対立が生じないためです。

Q5. 委任による代理人は、本人の許諾を得たときのほか、やむを得ない事由があるときにも、復代理人を選任することができる。(○か×か)

答え: ○ 任意代理人が復代理人を選任できるのは「本人の許諾を得たとき」または「やむを得ない事由があるとき」です(民法104条)。どちらか一方を満たせば足ります。なお法定代理人はいつでも自己の責任で選任できます(民法105条)。

Q6. 本人Aが破産手続開始の決定を受けた場合であっても、Aの委任による代理人Bの代理権は消滅しない。(○か×か)

答え: × 任意代理の代理権は本人の破産手続開始によって消滅します(委任契約が終了するため。民法653条)。「本人の破産で消滅しない」のは法定代理の場合です。

Q7. 無権代理人Bと契約したCは、契約時にBに代理権がないことを知っていた場合でも、相当の期間を定めて本人Aに追認するか否かを催告でき、期間内にAが確答しないときは追認したものとみなされる。(○か×か)

答え: × 前半は正しく、催告は悪意の相手方でもできます。しかし確答がないときは追認を拒絶したものとみなされます(民法114条)。「追認したものとみなす」が誤りです。

Q8. 無権代理人Bと売買契約を締結したCは、契約時にBに代理権がないことを知らなかった場合、本人Aが追認しない間は、その契約を取り消すことができる。(○か×か)

答え: ○ 無権代理の相手方の取消権は、善意(過失の有無は問わない)であれば、本人の追認前に限り行使できます(民法115条)。追認後は契約が有効に確定するため取り消せません。

Q9. 未成年者Bが代理権がないのにAの代理人としてCと契約した場合、Cが善意無過失であれば、CはBに対して契約の履行または損害賠償を請求することができる。(○か×か)

答え: × 無権代理人が制限行為能力者であるときは、民法117条の責任を負いません(117条2項3号)。重い無権代理人責任を負わせると制限行為能力者保護の趣旨が没却されるためです。

Q10. 本人Aが無権代理人Bを単独で相続した場合、Aが追認を拒絶することは信義則に反し許されないため、無権代理行為は当然に有効となる。(○か×か)

答え: × 本人が無権代理人を相続した場合、何ら落ち度のない本人が追認を拒絶しても信義則に反せず、拒絶できます(判例)。当然に有効となるのは逆のケース(無権代理人が本人を単独相続)です。ただし本人はBの117条の責任を承継します。

Q11. BはA所有の建物を賃借して20年間占有を継続した。Bは、この建物の所有権を時効により取得することができる。(○か×か)

答え: × 取得時効には「所有の意思」のある占有が必要で、その有無は占有開始の原因から客観的に判断されます(民法162条)。賃借人として始めた占有には所有の意思がなく、何年続けても時効取得できません。

Q12. 催告によって時効の完成が猶予されている間に再度の催告をすれば、さらに6ヶ月間、時効の完成が猶予される。(○か×か)

答え: × 催告による完成猶予は6ヶ月で、猶予中にされた再度の催告に完成猶予の効力はありません(民法150条2項)。催告を繰り返して時効の完成を延ばし続けることはできず、猶予中に裁判上の請求等に進む必要があります。

まとめ

論点急所条文
顕名がない場合代理人自身のためとみなす(相手方が悪意・有過失なら本人に帰属)民法100条
代理行為の瑕疵判定は代理人基準・取消権は本人。本人が知っていた事情は主張不可民法101条
代理人の行為能力制限行為能力者でも可・本人は取消し不可(法定代理人の場合の例外あり)民法102条
濫用・自己契約・双方代理・利益相反無権代理とみなす(例外: 本人の許諾・債務の履行)民法107条・108条
復代理任意=本人の許諾 or やむを得ない事由/法定=いつでも民法104条・105条
代理権の消滅本人=死亡(任意はさらに破産)/代理人=死亡・破産・後見開始民法111条・653条
無権代理の相手方催告=悪意でも可・確答なしは追認拒絶/取消し=善意/117条責任=善意無過失・制限行為能力者は免責民法113〜117条
無権代理と相続Bが本人を単独相続=当然有効/本人がBを相続=拒絶可(責任は承継)/共同相続=全員の追認が必要判例
表見代理授与表示・権限外・消滅後の3類型+重畳適用。117条責任との選択可民法109・110・112条
取得時効所有の意思+平穏公然。10年(開始時に善意無過失)/20年。賃借人は不可民法162条
消滅時効知った時から5年/行使できる時から10年。人身は客観20年・判決確定後10年・債権以外の財産権20年民法166・167・169条
完成猶予・更新催告6ヶ月(再度は無効)・協議の書面合意は通算5年まで・承認と判決確定は更新民法147〜152条
援用・放棄・遡及効保証人・物上保証人・第三取得者も援用可。事前放棄は不可・完成後の自認は援用不可。効力は起算日に遡る民法144〜146条

次章は物権変動と不動産登記法です。本章で学んだ時効は、「時効完成前の第三者には登記なしで勝てるが、完成後の第三者とは登記の早い者勝ち」という形でさっそく再登場します。取消し前後の第三者(第9章)とあわせて、前後理論の総整理に進みましょう。