先物取引で最初に戸惑うのが「お金の流れ」です。買っても代金は払わず、代わりに証拠金を預ける。決済していないのに毎日損益が動く。足りなくなると追加を求められる — どれも現物株には無い仕組みです。
この章では、証拠金・値洗い・追証を一つの流れとして理解します。ここが腹落ちすると、第 6 章のリスクの話が「怖い話」ではなく「計算できる話」になります。
- 証拠金
- 損失が生じた場合でも決済の履行を確保するための担保のことです。
- 委託証拠金・取引証拠金
- 顧客が証券会社に差し入れるのが「委託」、JSCCに預けるのが「取引」証拠金です。
- 代用有価証券
- 現金に代わって、株式などの有価証券を担保として使える仕組みです。
- VaR 方式
- 過去のデータからシナリオを作り、99%の損失額をカバーする金額を計算する方法です。
- 値洗い
- 毎日建玉の時価評価を行い、損益を受入証拠金の総額に加減することを指します。
- 追証(おいしょう)
- 受入証拠金が所要額を下回った際、不足分を補充する行為のことです。
証拠金は「担保」— なぜ必要か
先物取引では、損失が生じても決済の履行が確実にできるようにするために、証拠金が必要です。これは契約の相手方が支払い不能になった場合を想定した安全策です。
出典: JPX 証拠金制度
証拠金はどう流れるか — 顧客 → 証券会社 → 清算機関
まず、お客様は契約した証券会社に証拠金を差し入れます。この段階での呼び方が「委託証拠金」です。
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| 顧客 → 証券会社 | 現金または有価証券を差し入れる(委託証拠金) |
| 証券会社 → JSCC | 差換預託として取引証拠金を預ける |
次に、証券会社がそのお金を自己の金銭や有価証券に差し替えて、日本証券クリアリング機構(JSCC)へ預け入れます。これを「差換預託」と呼びます。
出典: JPX「顧客が差し入れる証拠金」 / JSCC「先物・オプション取引に係る取引証拠金」
いくら必要か — VaR 方式という計算方法
JSCCでは、2023年11月6日に先物・オプションの取引証拠金の計算方法を「SPAN方式」から「VaR方式」へ移行しました。
VaR(Value at Risk)方式、特にHS-VaRでは過去のマーケットデータからシナリオを作成します。そして、ポートフォリオ全体の損失の99%をカバーする金額として証拠金を算出します。
- 売りと買いを「ネット」して計算するため、同じ銘柄で売買同枚数保有している場合は相殺され、証拠金は発生しません。
出典: JSCC「新証拠金計算方式(VaR方式)とは」 / JSCC「先物・オプション取引に係る取引証拠金」
値洗い — 毎日、損益が精算される
建玉は日々時価評価され、「計算上の損益額」を受入証拠金の総額に加減します。これが「値洗い(マーキング・トゥー・マーケット)」です。
出典: JPX 受入証拠金の総額
追証 — 証拠金が足りなくなったら
「受入証拠金の総額」が証拠金所要額を下回った場合(総額の不足額)、または現金不足額が生じた場合に追証が発生します。この際、いずれか大きい額以上の金額を証券会社に差入れる必要があります。
- 期限: 不足が生じた日の翌日(休業日は順次繰り下げ)までの証券会社が指定する日時です
出典: JPX「顧客が差し入れる証拠金」 / JSCC「先物・オプション取引に係る取引証拠金」
理解度チェック
証拠金が設定される主な目的は何ですか?
先物やオプションで損失が生じた場合でも、決済の履行を確保するためです。
VaR方式(HS-VaR)では、ポートフォリオの損益額のうち何%をカバーする金額が計算されますか?
99%です。過去のデータからシナリオを作り、その範囲内の損失に備える額として算出します。
追証(証拠金の不足)が発生した場合の差入れ期限はいつまでですか?
不足が生じた日の翌日(休業日に当たるときは順次繰り下げ)までの、証券会社が指定する日時です。