Google Cloud ハンズオン教科書|2026-08 版
第 17 章 試験ガイド 1.4 試験ガイド 1.1 試験ガイド 1.2 試験ガイド 4.2

移行・DR・コスト最適化

RTO / RPO とランディングゾーン。既存システムをクラウドへ運ぶ設計

この章で学ぶこと

試験ガイド対応: セクション 1.4(移行計画の作成)、1.1 / 1.2(ビジネス要件・技術要件を満たす設計)、4.2(ビジネス プロセスの分析)

第 16 章まででゼロから作る設計は一通り揃いました。しかし実務のクラウド案件の多くは「すでに動いているシステムを運ぶ」ところから始まります。この章では既存システムの移行、被災時にも事業を止めない DR(ディザスタリカバリ)、そして運び終えたあとのコスト最適化を扱います。PCA 試験では、この 3 つが「6 ヶ月でデータセンターを退去したい」「RPO 15 分を最小コストで」のようなシナリオ問題として頻出します。数字(RTO / RPO・データ量・期限・予算)を設計に翻訳する練習をしましょう。

移行の進め方 — 4 フェーズと移行パターン

Google Cloud のアーキテクチャセンターは、移行を一発の引っ越しではなく 評価(Assess)→ 計画(Plan)→ 移行(Deploy)→ 最適化(Optimize)の 4 フェーズの反復として定義しています。全ワークロードを一度に運ぶのではなく、優先度をつけた「波」ごとにこのサイクルを回します。

評価(Assess) Migration Center で資産を検出 インベントリ / TCO 計画(Plan) ランディングゾーンを構築 ランディングゾーン完成 移行(Deploy) Migrate to VMs・DMS・STS ワークロードの移行完了 最適化(Optimize) ライトサイジングと割引適用 次の移行の波へ反復
図 17-1 移行の 4 フェーズ。1 周して終わりではなく、ワークロードの塊(波)ごとに評価へ戻って繰り返す。各フェーズの右下は主に使うプロダクト。

評価フェーズを担う Migration Center

Migration Center は、オンプレミスや他クラウドから Google Cloud への移行を支援する統合プラットフォームです。評価フェーズで必要な作業がひととおり揃っています。

移行パターン — どこまで作り替えるか

公式ガイドは移行タイプを次の 6 つに整理しています。右へ行くほど改修コストが増える代わりに、クラウドの利点を多く得られます。

パターン何をするか向く場面
リホスト(lift & shift)無修正または最小限の修正でそのまま移す期限が近い、改修予算がない、まずクラウドに載せたい
リプラットフォーム実行基盤だけ載せ替えて最適化する(VM → コンテナ、自前 DB → マネージド DB など)運用負荷は下げたいがアプリ本体は変えたくない
リファクタリングクラウド機能を活かすようにワークロードを改修する性能・機能・コストの改善を狙う
再設計(re-architect)モノリスをマイクロサービス化するなど構造から変えるスケーラビリティの根本改善
再構築(rebuild)既存アプリを廃棄し、クラウド最適化型として作り直す既存実装に価値が残っていない
再購入(repurchase)自前運用をやめて同等機能の SaaS に乗り換える差別化要素でない業務システム

評価フェーズの棚卸しでは、この 6 つに入る前にもうひとつの選択肢を必ず検討します。そもそも使われていないアプリは移行せず廃止(リタイア)することです。移行対象が 1 つ減ることが最大のコスト削減になります。

そのアプリは今後も使い続ける? 廃止(リタイア) 移行対象から外す いいえ はい 同等機能の SaaS に乗り換えられる? 再購入(SaaS へ移行) はい いいえ 改修せず、まず早く移したい? リホスト(リフト&シフト) はい いいえ 実行基盤だけ載せ替えたい? リプラットフォーム 例: VM をコンテナ化、DB をマネージドへ はい いいえ クラウドの利点を最大限に活かしたい リファクタリング / 再設計 / 再構築 クラウドネイティブへ改修 はい
図 17-2 移行パターンのデシジョンツリー。試験のシナリオ問題は「期限が近い・改修予算がない」ならリホスト、「運用負荷を下げたい」ならリプラットフォーム、のようにキーワードで判定できることが多い。

ランディングゾーン — 着地点を先に設計する

計画フェーズの主要な成果物がランディングゾーン(クラウド基盤とも呼ばれます)です。ワークロードを受け入れる前に整えておく組織共通の土台で、公式ドキュメントは次の 4 要素を必須としています。本書でここまでに学んだ内容の総集編でもあります。

構築は手作業ではなく Terraform などの IaC + CI/CD で行うことが推奨されています(第 16 章)。Google はサンプル実装として Terraform example foundation を提供しています。

試験の視点: 移行問題は「制約 → パターン → ツール」の 3 段変換で解けます。「データセンター契約が 6 ヶ月で切れる」「アプリ改修の予算がない」→ リホスト → Migrate to Virtual Machines。「Oracle をやめて PostgreSQL にしたい」→ データベースのリプラットフォーム → Database Migration Service。「まず何をすべきか」型の問題では、いきなりツールを選ばず評価(インベントリ作成・依存関係の把握)から始める選択肢が正解になりやすいことも覚えておきましょう。

移行ツールとデータ転送 — 何をどう運ぶか

運ぶ対象ごとのツール対応表

運ぶものツール要点
VMMigrate to Virtual MachinesvSphere(オンプレ)・AWS・Azure・Google Cloud VMware Engine から Compute Engine へ VM とディスクを移行する
データベースDatabase Migration Service(DMS)初期スナップショット + 継続レプリケーションを管理し、最小ダウンタイムで移行。同種移行(MySQL → Cloud SQL for MySQL、PostgreSQL → Cloud SQL / AlloyDB)は追加料金なし。異種移行(Oracle / SQL Server → PostgreSQL 系)は処理 GiB 単位の課金(2026-08 時点)
オブジェクト / ファイル(小規模)gcloud storage1 TiB 未満の目安。CLI からの直接アップロード(第 8 章)
オブジェクト / ファイル(大規模)Storage Transfer Service1 TiB 以上を想定したマネージド並列転送。S3 / Azure Blob / オンプレ / HDFS から Cloud Storage へ
回線では間に合わない量Transfer Appliance物理ストレージ装置(TA40 / TA300)にコピーして Google へ返送。オンライン転送に 1 週間以上かかる規模で検討

データ量 × 回線帯域の計算 — オンラインか、物理輸送か

転送手段の分かれ目は計算で決まります。転送時間 ≒ データ量 × 8 ÷ 実効帯域です。帯域を 100% 占有できたと仮定した理論値でも、次の表のようになります。

データ量100 Mbps1 Gbps10 Gbps
1 TB約 1 日約 2.2 時間約 13 分
10 TB約 9 日約 1 日約 2.2 時間
100 TB約 93 日約 9 日約 22 時間
1 PB約 2.5 年約 93 日約 9 日

実際の回線は業務トラフィックと共有するため、実効速度はさらに落ちます。公式ドキュメントの例では、300 TB は 100 Mbps 回線で約 9 ヶ月かかるのに対し、Transfer Appliance なら約 25 日で取り込めます(2026-08 時点)。試験でも「数百 TB を数週間で」「拠点の回線が細い」という条件が出たら Transfer Appliance が答えです。装置内のデータは AES-256 で暗号化され、Cloud KMS の顧客管理鍵も使えます。

ソフトウェアライセンスのマッピング

VM 移行で見落としやすいのが OS・ミドルウェアのライセンスです。持ち込み方は 3 通りあります。

方式仕組み使いどころ
ライセンス込みイメージ(従量課金)RHEL・SLES などのプレミアムイメージを使い、ライセンス料込みで課金される。プレミアムイメージ由来のイメージは BYOL 対象外既存契約に縛られない・台数が変動する
BYOL + License MobilitySQL Server などの対象 Microsoft アプリは、通常の(共有テナントの)VM に既存ライセンスを持ち込める対象アプリのライセンス資産を活かす
BYOL + 単一テナントノード物理コア / 物理プロセッサ単位で課金されるライセンスは、専有物理サーバーである単一テナントノード(sole-tenant node)上で実行する物理ハードウェアに紐づくライセンス条件

DR 設計 — RTO・RPO とスタンバイの温度

RTO と RPO — 要件を 2 つの数字にする

DR 設計は 2 つの数字を決めるところから始まります。

公式の DR 計画ガイドが強調するのは、RTO / RPO を小さくするほど実装コストと運用負担が増えるというトレードオフです。RPO はデータ同期方式(同期 / 非同期 / 定期バックアップ)を、RTO はフェイルオーバー自動化の必要性を、それぞれ直接決定します。だからこそ数字はエンジニアが勝手に決めるのではなく、ビジネスインパクト分析から導きます。アーキテクチャセンターの例では、アプリを重要度で 3 層に分け、最重要層はゾーン / リージョン障害ともほぼゼロの RTO / RPO、中間層は 15 分〜1 時間、通常層は 1〜12 時間という目標を置いています。

DR パターン — コールド / ウォーム / ホット

DR パターンは公式ガイドがタイヤに例えるとおり 3 段階です。スペアタイヤを持たない(コールド)、スペアタイヤを積んでおく(ウォーム)、パンクしても走り続けられるランフラットタイヤ(ホット)。待機系が「温かい」ほど RTO / RPO は縮み、平時のコストは増えます。

コールド — バックアップだけ持つ 本番リージョン バックアップ / スナップショット 待機リソースなし 定期バックアップ 被災時: バックアップから環境を再構築 — RTO は時間〜日単位、待機コストは最小 ウォーム — 最小構成で待機 本番リージョン 最小構成のスタンバイ 被災時にスケールアウト 非同期レプリケーション 被災時: スタンバイを本番規模へスケールアウト — RTO は分〜時間 ホット — 両リージョンで常時稼働 本番リージョン フル構成で稼働中 常時トラフィック処理 常時レプリケーション 被災時: 即時フェイルオーバー — RTO ほぼゼロ、待機コストは最大 コスト低・RTO 長 コスト高・RTO 短
図 17-3 DR の 3 パターン。下に行くほど待機系が「温かく」なり、RTO / RPO は縮む代わりに平時のコストが増える。要件を満たす中で最も冷たい構成を選ぶのがコスト最適。

Google Cloud で各パターンを組み立てる建材は、すでに各章で学んだものです。ディスクのスナップショットはグローバルリソースなので別リージョンへの復元にそのまま使えます。バックアップの保管先は Cloud Storage のストレージクラスで選び、月 1 回以下のアクセスなら Nearline、長期保管の最安は Archive です(第 8 章)。リージョン永続ディスクは 2 ゾーンに同期書き込みし、ゾーン障害に耐えます。フェイルオーバーの経路切り替えは Cloud Load Balancing のヘルスチェックや Cloud DNS の API 操作で自動化し(第 5 章)、復旧手順そのものは Terraform 等の IaC にしておきます(第 16 章)。DR 先の VM 容量を確実に確保したい場合は予約(reservation)が使えます。データベース層は Cloud SQL のリージョナル構成やクロスリージョン リードレプリカ、Spanner のマルチリージョン構成が土台になります(第 9 章)。

Backup and DR Service — バックアップを一元管理する

個別にスナップショットを仕込む代わりに、Backup and DR Service でバックアップを一元管理できます。対応ワークロードは Compute Engine の VM とディスク、Cloud SQL / AlloyDB、Google Cloud VMware Engine、VM 上の自己管理 Oracle / SQL Server、NFS / SMB ファイルシステムなどです。中核となるバックアップボールト(backup vault)は、保存したバックアップを変更も削除もできない不変ストレージで、ランサムウェア対策として保持期間を強制できます。Google Cloud コンソール経由の運用では最小 RPO 4 時間、アプライアンス管理コンソール経由では最小 RPO 15 分まで縮められます(2026-08 時点)。

試験の視点: DR 問題は RTO / RPO の数字をパターンに翻訳する問題です。「RPO 24 時間・コスト最小」→ 日次バックアップのコールド。「RPO 15 分・RTO 1 時間」→ 非同期レプリケーション + ウォームスタンバイ。「RTO ほぼゼロ」→ マルチリージョンのホット(アクティブ / アクティブ)。選択肢に迷ったら「要件を満たす中で最も安い(冷たい)構成」を選びます。要件以上に温かい構成は、正しく動いてもコスト面で不正解です。
ハンズオン 17-1|スナップショットスケジュールで自動バックアップを仕込む

DR の土台になる「バックアップが自動で取られ続ける状態」を作ります。所要 15 分。費用はディスク 10 GB とスナップショット数個を短時間だけ使うので数円未満です(Cloud Shell 実行を想定。ローカルの gcloud でも同じです)。

  1. バックアップ対象のディスクを作ります(VM は不要です。ディスク単体で試せます)。PROJECT_ID は gcloud config get-value project で確認できる自分のプロジェクト ID に読み替えてください
gcloud compute disks create dr-source-disk \
    --size=10GB --type=pd-balanced \
    --zone=asia-northeast1-b
  1. スナップショットスケジュール(リソースポリシー)を作ります。毎日 17:00 UTC(翌日 2:00 JST)に取得し、7 日で自動削除する設定です
gcloud compute resource-policies create snapshot-schedule daily-backup \
    --region=asia-northeast1 \
    --daily-schedule \
    --start-time=17:00 \
    --max-retention-days=7 \
    --on-source-disk-delete=apply-retention-policy
  1. スケジュールをディスクに適用し、設定を確認します
gcloud compute disks add-resource-policies dr-source-disk \
    --resource-policies=daily-backup \
    --zone=asia-northeast1-b

gcloud compute resource-policies describe daily-backup \
    --region=asia-northeast1
  1. スケジュール実行を待たずに動きを確かめるため、手動でスナップショットを 1 つ作ります
gcloud compute snapshots create dr-manual-snap \
    --source-disk=dr-source-disk \
    --source-disk-zone=asia-northeast1-b

gcloud compute snapshots list

list の出力に dr-manual-snap が READY で並べば成功です。このスナップショットは次のハンズオン 17-2 で使うので、まだ削除しないでください。

後片付け: ハンズオン 17-2 の末尾でまとめて削除します。17-2 を実施しない場合は 17-2 末尾のコマンドをここで実行してください。

ハンズオン 17-2|スナップショットから別リージョンへ復元する(コールド DR 演習)

スナップショットがグローバルリソースであることを利用して、東京のディスクを大阪リージョンに復元します。これがコールド DR の「復元」の実体です。所要 10 分、費用は 10 GB ディスク 1 枚の追加で数円未満です。

  1. ハンズオン 17-1 で作った dr-manual-snap から、大阪(asia-northeast2)にディスクを復元します。リージョンをまたぐ指定でもそのまま通ることに注目してください
gcloud compute disks create dr-restored-disk \
    --source-snapshot=dr-manual-snap \
    --type=pd-balanced \
    --zone=asia-northeast2-b
  1. 復元されたディスクを確認します
gcloud compute disks describe dr-restored-disk \
    --zone=asia-northeast2-b \
    --format="value(name,sizeGb,status)"

期待される出力: dr-restored-disk 10 READY。本物の DR ではこの後にブートディスクのスナップショットから VM を起動して DNS / LB を切り替えますが、流れは同じ「スナップショット → ディスク → VM」です。この一連の所要時間こそが、コールドパターンで達成できる RTO の実測値です。

後片付け: 17-1 と 17-2 で作ったリソースをすべて削除します

gcloud compute disks delete dr-restored-disk --zone=asia-northeast2-b --quiet
gcloud compute snapshots delete dr-manual-snap --quiet
gcloud compute disks remove-resource-policies dr-source-disk \
    --resource-policies=daily-backup --zone=asia-northeast1-b
gcloud compute disks delete dr-source-disk --zone=asia-northeast1-b --quiet
gcloud compute resource-policies delete daily-backup \
    --region=asia-northeast1 --quiet

gcloud compute disks list
gcloud compute snapshots list

最後の 2 コマンドで一覧が空(またはこの章以外のリソースのみ)になっていれば削除完了です。

コスト最適化 — 割引・ライトサイジング・可視化

クラウド移行はコストの性質を変えます。オンプレはサーバー購入という先行投資(CAPEX)と減価償却の世界、クラウドは使った分を払う運用費(OPEX)の世界です。OPEX は俊敏ですが、放置すると膨らみます。Google Cloud のコスト最適化は「割引を効かせる」「サイズを適正化する」「見える化する」の 3 本柱で考えます。

3 つの割引 — SUD・CUD・Spot

中断・再実行できるワークロード? Spot VM 大幅割引・中断あり(第 4 章) はい いいえ 1〜3 年、構成とリージョンを固定できる? リソースベース CUD 最大 55〜70% 割引 はい いいえ 支出額(金額ベース)ならコミットできる? フレキシブル CUD CE / GKE / Cloud Run 横断 はい いいえ コミットなしで従量のまま使う ライトサイジング + SUD 推奨事項の適用 + 自動割引 はい
図 17-4 割引の選び方。まず中断可否、次にコミットの可否と柔軟性で分岐する。どの枝でも、購入の前にライトサイジングでサイズを適正化しておくと効果が最大になる。

ライトサイジング — Recommender の推奨事項を適用する

割引の前にやるべきなのがサイズの適正化です。Active Assist の一機能として、Compute Engine は過去 8 日間の CPU / メモリ使用率(60 秒間隔の計測)からマシンタイプ推奨事項を自動生成します。コンソールの VM 一覧に電球アイコンで表示されるほか、Recommender API・gcloud からも取得でき、適用するとインスタンスは停止 → マシンタイプ変更 → 再起動という流れで置き換わります(MIG には別途、グループ向けの適用手順があります)。「4 vCPU で作ったが平均使用率 5%」のような VM は、推奨に従って縮めるだけで恒久的にコストが下がります。

可視化 — 予算アラートと請求データの BigQuery エクスポート

最適化は測れないと始まりません。土台は第 1 章で設定した予算アラートです。それより一歩進んだ分析にはCloud Billing データの BigQuery エクスポートを使います。種類は 4 つあります(2026-08 時点)。

重要な性質がひとつあります。エクスポートは有効化した時点からのデータしか蓄積されません(データセットが US / EU マルチリージョンの場合に前月分まで遡って入るのが唯一の例外)。あとから 1 年前のコストを分析したくなっても取り戻せないので、プロジェクトを作ったら早めに有効化するのが定石です。リソースにラベルを付けておけば、エクスポートしたデータをチーム別・環境別に集計するコスト配賦も SQL だけでできます。

ハンズオン 17-3|請求データを BigQuery にエクスポートして分析する

標準の使用料金エクスポートを有効化し、コスト分析クエリを流します。所要 15 分 + データ到着待ち。エクスポート自体は無料で、BigQuery の保存・クエリも学習用の量なら無料枠(2026-08 時点でストレージ 10 GiB / クエリ月 1 TiB)に収まります。請求先アカウントの管理権限が必要です(第 1 章で自分で作ったアカウントなら持っています)。

  1. エクスポート先の BigQuery データセットを作ります
bq --location=asia-northeast1 mk --dataset billing_export
  1. エクスポートの有効化はコンソールで行います(gcloud には対応コマンドがありません)。ナビゲーションメニュー →「お支払い」→「課金データのエクスポート」→「BigQuery エクスポート」で 標準の使用料金 の「設定を編集」を選び、プロジェクトと billing_export データセットを指定して保存します
  2. データは即時には現れず、数時間〜1 日程度で gcp_billing_export_v1_XXXXXX という名前のテーブルが自動作成されて溜まり始めます。到着後、サービス別のコストを集計してみましょう(テーブル名は BigQuery コンソールで実名を確認して置き換えます)
bq query --use_legacy_sql=false '
SELECT
  service.description AS service,
  ROUND(SUM(cost), 2) AS total_cost,
  currency
FROM `billing_export.gcp_billing_export_v1_XXXXXX`
GROUP BY service, currency
ORDER BY total_cost DESC'

期待される出力: この教材で使ってきた Compute Engine や BigQuery などのサービス別コストが降順で並びます。予算アラートが「超えたら知らせる」装置なら、こちらは「どこで使ったかを説明できる」装置です。

後片付け: このエクスポートは学習プロジェクトのコスト観察に役立つので、残しておく選択も合理的です(費用はデータ量次第ですが学習規模なら無料枠内が目安)。削除する場合は、先にコンソールの「課金データのエクスポート」で標準の使用料金を無効化してから、データセットを消します

bq rm -r -f -d billing_export
試験の視点: コスト問題は「ワークロードの性質 → 割引」の対応で解きます。「3 年間、24 時間 365 日稼働するのが確実」→ CUD。「夜間バッチで中断可」→ Spot。「まず現状を把握したい」→ 請求データの BigQuery エクスポートとラベルによる配賦。そして CAPEX / OPEX の語が出たら、オンプレ = CAPEX、クラウド = OPEX、CUD = OPEX のまま予測可能性と引き換えに割引を得る手段、と整理して読み替えましょう。

つまずきポイント

CUD を「試しに」買ってしまう — CUD はキャンセル不可で、使わなかった月もコミット分が請求され続けます。購入は SUD の適用実績や過去の使用率データで安定稼働を確認してからにしましょう。学習プロジェクトで購入する理由はまずありません。
請求エクスポートを後回しにして過去データを失う — BigQuery エクスポートは有効化以降のデータしか入りません。「コストが気になり始めてから有効化」では、分析したい肝心の期間が空白になります。プロジェクト開設時の初期設定に含めるのが定石です。
スナップショットスケジュールの時刻を JST と勘違いする — --start-time は UTC です。「業務時間外の 2:00 に取りたい」つもりで 02:00 と書くと 11:00 JST、業務ピークにスナップショットが走ります。JST から 9 時間引いた値を指定してください。
DR を作って満足し、テストしない — 公式ガイドは DR 計画に定期テストを含めることを明確に求めています。バックアップが取れていても、復元手順が古い・権限が足りない・DR 先の容量が確保できない、は本番被災時に初めて発覚しがちです。復元からクリーンアップまでを IaC 化し、第 15 章で触れた DiRT のように演習として回しましょう。

理解度チェック

Q1. RTO と RPO の違いは?

RTO は「サービスが停止していられる最大時間」、RPO は「失ってもよいデータの最大期間」です。RPO がデータ同期方式(同期 / 非同期 / 定期バックアップ)を決め、RTO がフェイルオーバー自動化の必要性を決めます。どちらも小さくするほどコストが上がります。

Q2. Database Migration Service の料金は、同種移行と異種移行でどう違う?

同種移行(MySQL → Cloud SQL for MySQL、PostgreSQL → Cloud SQL / AlloyDB for PostgreSQL)は追加料金なしで使えます。異種移行(Oracle / SQL Server → PostgreSQL 系)は処理したデータ量(GiB)ベースの課金です(2026-08 時点)。

Q3. 継続利用割引(SUD)と確約利用割引(CUD)の本質的な違いは?

SUD は申し込み不要で、請求月の 25% を超えた稼働に自動適用される割引です(対象は N1 / N2 / C2 などの一部シリーズ。E2 は対象外)。CUD は 1〜3 年の利用を事前にコミットして受ける割引で、割引率は大きい代わりに、使わなくても請求されキャンセルもできません。

Q4.(試験形式)データセンターの賃貸契約が 6 ヶ月後に終了する。vSphere 上の 200 台の VM で動く業務システムを、アプリ改修なしで期限内に Google Cloud へ移したい。最適なアプローチは?
A. 全アプリを Cloud Run 向けにリファクタリングする B. Migrate to Virtual Machines で Compute Engine へリホストする C. Database Migration Service で全 VM を移行する D. Transfer Appliance に VM をコピーして郵送する

B。「期限が近い・改修なし」はリホストのシグナルで、vSphere からの VM 移行は Migrate to Virtual Machines の主用途です。A は 200 台の改修が 6 ヶ月では非現実的でそもそも要件(改修なし)に反します。C は VM ではなくデータベース専用のツールです。D は Cloud Storage へのバルクデータ搬入手段で、稼働中の VM を Compute Engine インスタンスとして移行する仕組みではありません。

Q5.(試験形式)基幹 EC サイトの DR 要件は RPO 15 分・RTO 1 時間。コストは要件を満たす範囲で最小にしたい。どの構成を選ぶ?
A. マルチリージョンのアクティブ / アクティブ構成で常時両系稼働 B. 日次スナップショットのみを別リージョンに保管 C. DR リージョンに最小構成のスタンバイを置き、データを非同期レプリケーションする D. バックアップと Terraform だけ用意し、被災後にゼロから再構築する

C。非同期レプリケーションで RPO 15 分を、最小構成スタンバイのスケールアウトで RTO 1 時間を満たすウォームパターンが、要件を満たす最も安い構成です。A は要件を満たしますがオーバースペックでコスト最小に反します。B は RPO が最大 24 時間になり未達です。D のコールド再構築は RTO 1 時間に収まらないリスクが高い構成です。

まとめと次章へ

次の第 18 章はいよいよ総仕上げです。本章までに学んだ道具立てを、PCA 試験の公式ケーススタディ 4 本(EHR Healthcare / Helicopter Racing League / Mountkirk Games / TerramEarth)に当てはめ、要件をアーキテクチャへ翻訳する練習と試験本番のテクニックを扱います。

参考リンク: